忖度(そんたく)のかたまり


料理店などというものは忖度(そんたく)のかたまりです。


たとえば「辛口の日本酒をください」と言われたとします。料理店では頻繁にあります。


ご注文の方の希望する辛口ってどんな辛口を意味するのか? 淡麗? アミノ酸度の高さと濃厚さを持った辛さ? 甘みと酸のバランス?


その方の最初のビールの飲むスピードはどうであったか、年齢は?、想像できるお酒の履歴は?、料理との予算の兼ね合いは? 


どういうお酒が辛口と認識され、どのレベルをコストと味のバランスがいいと感じるのか?


そもそも「辛口を」とおっしゃる日本酒の認識度はどれほどのもの?


もちろん「ご予算は?」とか「どんな辛口をご希望で?」とかは伺いません。



ご来店なさったとき、さらに言えば予約の電話を伺ったときから「辛口を」と発せられるまでを丹念に観察し、このお客様の嗜好を考えて、瞬時に「では○○はいかがでしょうか?」と召し上がっていただく。


「相手の心を慮って(おもんぱかって)こころをくだく」忖度できなければ料理店は成り立ちません。


言葉をかえれば「おもてなし」と言えるかも。



外国のように、すべてのメニューと値段を表示してお客様の選択に任せてしまうと言う方法も十分にあるでしょうし、そういう日本のお店も多いわけですが、もともと接待とか、大切な記念日とかに使っていただくことも多い店では、値段が全部見えるというのもかえってご馳走になる側からみると気詰まりなのです。


お金を出してもらう側が、相手の気持ちを慮るというのも、ある意味忖度。


日本人のそういう処がよくもあり悪くもあるのかもしれませんが、長いことこういう世界にどっぷり身をつけてしまっていると、口には出さないで相手の心を思いやり、さらにその上をいってこそ「おもてなし」「忖度」があるのです。


この世界ではずっと大切にしていきたいんですけどね。