職人を育てる〜その3


以前にも書きましたが、リニューアルした2010年以降、調理場の仕事は基本私がひとりでやってきました。


弟子を育てること、若者をさがすことから解放されたストレスのなさというのは予想以上に居心地のいいもので、これから引退まで一人仕事に徹することに満足していました。


ところが、「どうしても私の元で仕事を覚えたい」と申し出る若者が現れたのです。彼女は調理師学校時代に一ヶ月の実地研修を私ン処で経験し、その時期にはすでに決まっていたホテルの調理場に入って修行の第一歩を歩み始めていました。


資本力もあり厚生条件も労働条件も整った大きなホテルでの仕事は、多いときには600人分の朝食を6人のスタッフで仕上げるというような忙しさで、当然ながら既製品の袋を空けるのが仕事になるような内容であったようです。そこで比較になったのが研修時に触れた私の仕事らしく、職人の真っ当な仕事を覚えたい意欲に駆られたのでした。


とはいえ、一人仕事で回るように整えた仕事と人事内容に新たにひとり加わるのはそれほど簡単なことではありません。


「ちょ、ちょっと待って。考えさせて。。。」と思っている直後の大きな病気などで話を長引いてしまっていたのですが、いよいよ梅雨時前から調理場に入ってもらうことになりました。


すでに研修の時に店の内容もスタッフとも打ち解けていましたし、なにしろ素直でまじめな気質ゆえに言われたことを(もちろん怒らずに)スポンジに水を吸い込む覚えていきます。


まだ仕事を始めて一ヶ月ちょっとなのに、すでに紀州備長炭で赤ムツやら甘鯛やら天然鮎やらの高級魚を焼いてもフォローしてあげれば十分にお客様に出せる仕事が出来ます。


仕事を覚えるのは前回も言ったように「怒る怒らない」ではなくて、本人の資質素養の問題なのですね。


たぶんもう私にとっては最後の弟子。教えられることはすべて教え、伝えられることは的確に伝えて人の倍のスピードで一人前にしてあげたいと思います。


最終で「いい弟子に恵まれたな」と心に残る関係を育てられたら「私が」幸せです。初心を貫いて続いてくれるといいな。