狭い世界の中の料理人のプライドと偏見

大阪でこんな事件があったそうです。


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「なに灰汁(あく)取りしてんねん!」。そう叱責された中国人アルバイトの男は、先輩調理師に包丁を突き立てた。「かに道楽道頓堀中店」での事件の発端は男がカニをゆでていた鍋の沸騰に気づき、灰汁を取ったこと。かに道楽ではアルバイトが鍋を触るのはご法度で、調理師は規則に従ったまでだが、男の目にはその姿勢が理不尽に映ったらしい。トラブルの一因は日中両国間の仕事観の違いにある。日本で働く外国人が増えている今、同じような事態はいつ起きても不思議ではない。

仕事は「鍋の盛りつけ」

 「仕事を手伝おうとしたのに、気持ちを分かってもらえなかった」

 中国人アルバイトの高爽(ガオ・ショアン)被告(24)は大阪地裁で開かれた初公判で、こう犯行動機を語った。


 事件は地下1階の調理場で起きた。豆腐を切っていた高被告は、調理師が目を離した鍋から蒸気が噴き出しているのに気づき、火を弱めて灰汁を取った。

 ところが、それに気づいた調理師は「鍋を触るなと言うたやろ!」。褒められると思った高被告は、予想外の反応に怒りを爆発させた。

 「ありがとうやろ!」

 「あなた、それでも人間ですか!」

 怒り心頭の高被告に、調理師は鬼のような形相で近づいた。高被告は殴られることを恐れ、持っていた包丁で調理師を威嚇。それでも調理師は歩みを止めず、包丁は腹に突き刺さった。



 事件の構図は単純だが、背景には日本人労働者と中国人労働者の意識の違いも浮かび上がる。

 つまり、日本人なら耐えられるであろう上司からの多少の理不尽や小言も、中国人にはあまりに耐えがたい苦痛なのではないかということだ。
 一体、なぜこのような感情の行き違いが生じるのか。

 民間企業に勤務していた当時、中国に赴任した経験もある近畿大経営学部の辻隆久教授(雇用調整)は「日本人と中国人の国民性は根本的に違う。雇う側がそれを認識しなければ、職場でトラブルが起きるのは当然だ」と指摘する。

 辻教授によると、中国人の仕事に向かう姿勢は個人主義的で、日本人のような協調性はない。さらに、明確な物言いを好み、曖昧さを許容しない。

 要するに、「見て覚えろ」や「察しろ」という日本的な指導法は、中国人にはまったく通用しない。中国人に必要なのは、むしろ日本人には敬遠されがちな明確な指示やビジョンなのだ。メンツを潰されるのを嫌うため、同僚の前での叱責も避ける必要がある。


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この事件は佐々木俊尚さんのtweetで知り、その後視点を広げながらたくさんの意見が交差していきました。


事件そのものは、料理人というきわめて狭い世界の中での職人的プライドと、中国人の常識との軋轢が生んだ事故です。


かに道楽の料理職人 27歳。


店と年齢を見ただけで調理場での彼の態度が見えてくるようです。


27歳の料理人といえば、高校もしくは専門学校を卒業後料理の世界に入って7-8年。指示された仕事はほとんどこなすことが出来るようになって本人の鼻っ柱はどんどん高くなる頃です。ましてやチェーン店であれば店長であってもおかしくない経験年数。実際には料理人としてはやっと独り立ちのまだまだ手前で、与えられた仕事は出来ても職人として一人前にはほど遠いレベルです。でもチェーン店レベルでは仕事が出来るという自意識だけは高いものですから、自分の領域を侵されたり、尊敬を得られなかったりすることにいらだちを感じてもおかしくない経験年数です。


たとえば、今回のように煮方まわりの仕事に経験の浅いアルバイトが手を出したりしたら「百年早いわ!」と怒鳴るでしょう。手を出したのが日本人であっても中国人であっても同じはずです。


ただ、日本人の場合、職人に対する距離の取り方がある程度わかっていますので、職人の仕事に手を出すことは絶対にしません。だって怒られるから。


その辺を合理的に考える中国人では、「その程度の仕事なら」と思っても不思議ではありません。そんな齟齬が日々積み重なって爆発したのでしょうね。


仕事はある程度覚えていても、人間としてのゆとりや人間関係の取り回しにまで心が至らない20代の若者であればそういういざこざがあってもおかしくはありません。


実際、私の調理場でも鍋や焼台、まな板が並んでいる場所には私以外は触れようとはしません。私はその手のことにフランクなつもりですので、触れられてもまったく意に介しませんが、職人の領域という暗黙の意識がスタッフ全員に自然に行き渡ってしまっているのでしょうね。それが日本人の職人との距離感なのかもしれません。


さて、この問題はtwitter上ではさらに職人のあり方にまで話が進みました。そのお話は後日また。