おもてなし・・・は恥ずかしい


お・も・て・な・し」は破竹の勢いです。


「おもてなし」こそが日本人の心であるという方もいますし、特に料理店では昔から「我が店ではおもてなしの心を大切に」ともてはやされてきた言葉でもあります。


しかしながら、私は個人的には自分のお客様に「おもてなしの心で接します」と公言するのは恥ずかしくてなりません。


もちろん、微に入り細に入りお客様に心遣いを尽くすことはあらゆる料理店の信条のはずなのですが、「私”おもてなし”やってます」と言ったとたんに、食べログ的に、そうは言うけど「あそこはなってないじゃぁないか」「ここでこうして欲しかったのにちっとも察してくれなかった」などという批判非難中傷の嵐がやってきそうな気がするのです。



おもてなしというのは、「お客様の注文を伺って料理、お酒を出して召し上がっていただく」という基本に様々付随する、ひとりひとりのお客様ごとに違う個別の気遣い、マニュアルでは扱いきれない小さな心遣いの総体をいうのだと思うのです。それらの多くはお客様のちょっとした動きや言動から察知して、できれば「私、あなたのためにやってますよぉ」とこれ見よがしでない手法でさりげなく行われるものが最上であると信じています。さりげないことであるべきなのに、「おもてなししてます」と言ってしまっては台無しです。


お得意様で気心を知っていれば早めの対処に動きやすくても、一見のお客様が何を欲しているかを知るの至難の業で、情報がないところで余計なことをして失敗することさえあるのです。前述の食べログあたりで現れる、店に否定的な言葉の数々はおもてなしの裏返しに対するモノが多いのですね。




たとえば、小さなお話ですが、店では一見のお客様から予約が入ったとき、会社名であればnet上でわかることは私の頭に入れるだけでなく(個人名でも電話番号で把握できることもあります)、スタッフにも伝えます。社長が誰で、会社の製品が何で、従業員数と支店展開は・・・ということは知らなくても料理は出せるのですが、2-3時間のお座敷内で何かの時に役に立つこと、話題を間違えないことに有用となることはよくあります。二度目三度目のお客様であればなおさら、前回前々回がどんなお座敷であったかを把握しておくことはとても大切なのです。(料理お酒ほかの嗜好の把握は言うまでもありません。以前にお越しいただいていればそのときに何を召し上がっていただいているのかを復習するのも当然)


私たち店側がそれを認識していることをお客様に報告するはずもないのですが、小さな心遣いを積み重ねるための情報のごくごく小さな一端ではあります。そういう試行錯誤をおもてなしというのであればそうなんでしょうが、私は個人的には日常の小さな積み重ねのひとつでしかないと思っています。やっぱりその程度のことをおもてなし・・・とよんだら、本当のおもてなしをしている方に申し訳ない。