日本の力


震災以降「日本人、もっと自信持て」の論調に励まされることが多いのでありますが、料理関係でも感じることがあります。


それは日本人の魚扱いのある意味偏愛趣味ともいえるほどの丁寧さ。世界中でこれほど魚を大事に扱い、美味しさを際立たせようとしてきた国民は他にいません。


まず、漁師さんのレベルから違います。


釣れた魚を活かしたまま漁港に持ち帰る技術。


活かすことができない(もしくは活かす必要のない)魚に手を触れずに氷〆にする技術。


活き〆にして鮮度を保つ技術。


活き〆後の氷〆の技術。


しめた後の熟成の技術とその見極め。


魚の脱水処理の技術。


それらはすべて日本以外の国では見ることがほとんどない、魚を美味しく食べるための下処理の手法で、日本で食べる魚が美味しいのは、海に近い故の鮮度だけの問題ではないのです。漁師から魚屋、料理屋にいたるまでの様々な手法ゆえに調理以前に丁寧に丁寧に扱われ下処理がされているわけです。こんな繊細な技法を持っているのは日本だけです。


先月まで献立に上っていた焼き筍(京都乙訓産)のアンチョビソースかけは、おかげとお客様に好評でした。アンチョビはもちろん自家製。この献立のために一〜二月の内に背黒鰯をフィレにして塩漬けにしてアンチョビを作っておきます。


鰯のような弱い魚を扱う漁師さん、魚屋さんの技術の素晴らしさ故に、鮮度が抜群の鰯が手に入ります。私たちはそれを手早くさばき塩漬け→オリーブオイル漬けにするわけですが、そうやってできあがったアンチョビはイタリアの瓶詰めや缶詰に負けるわけがありません。塩漬けにするからといって鮮度や扱いが雑であることは一瞬たりともないのですから。



こういった日本の魚の美味しさは誇っていいものだと思うんですけどねぇ。