隠れた銘酒その4


新潟 朝日酒造は有名な「萬壽」を造る蔵です。


萬壽はこの20年ほどはほとんど使うことがないお酒です。30年近く前、大吟醸に目覚めた時期には菊姫大吟醸と萬壽が店のメインとなるお酒でした。当時はその二本は入手が難しいお酒でしたし、他に並ぶお酒もたくさんは存在しない時代でしたから、菊姫、萬壽を置くだけで十分に日本料理店として成り立つほどいいお酒でありました。もちろん今でも萬壽は食中酒として変わらぬ素晴らしい品質を保っているお酒ではあるのですが、30年の時を経て、わざわざ私の店で置く私的な価値を見いだすことができなくなってしまったというのが本音です。できれば、お客様が自分では入手できないお酒、一般には知られていないけれども飲んでいただきたいお酒で勝負したいと思うのです。


20年くらい前でしたか、アメリカ駐在のあるお得意様が、「萬壽はロスでも飲めるんですよ」とおっしゃったことがひとつの契機でした。


ロスアンゼルスでも飲めるお酒を置いて高いお足を頂戴するならば、ご自身が四合瓶で購入された方がよりリーズナブルに美味しく召し上がっていただけるはずです。



四〜五年ほど前、この萬壽の無濾過生原酒がごく少量出荷されるようになりました。


味わいに新酒の無濾過生原酒らしい凝縮感があり、この原酒から萬壽の淡麗さが醸し出されることは想像できないほど膨らみととんがって突き抜けるフレッシュな生感を感じるお酒でした。


「これなら出荷量の点でもお客様にお奨めしやすい」


それ以来、寒さが一番厳しい二月初旬の定番となったのです。


名前も最初はタンクのナンバーがそのままついていました。


最初は128号だったか?次は137号



135号



その後タンクのナンバーを使うことはなくなって「無濾過生原酒」と表示されて確か今年で三年目くらい。



本日入荷しました。今年はリーフレットがついていて、萬壽として仕込まれた6本のタンクのうち144号タンクが無濾過生原酒に使われたのだそうです。


ひたすら綺麗なお酒が続く中にこの無濾過生原酒が一本加えられるだけで、日本酒のラインががらりと変わってお客様にさわやかなインパクトを与えることができる銘酒です。



ロスでも飲めるようになって萬壽を扱わなくなったと申し上げましたが、実は先日の韓国旅行で店に必ず登場する「黒龍八十八号」をホテルで見かけました。


黒龍が年末にごく少量出荷する鑑評会出品酒です。



「おお!とうとう萬壽が・・・だけではなく八十八号まで海外で!」と思ったのですが、値段をみてびっくり85万ウォン(四合瓶で約6万円) 思わず何度も「0」の数を見直し、計算機で値段を確認してしまいました。


この値段のことと出荷量を考えると、「韓国でも飲めるからもう扱う必要はない・・・」と思う必要はまだなさそうです。


・・・・などというお話を酒屋さんに伝えると、「最近、東京に旅行に見えている台湾の方に宅急便で黒龍を送ることが何度もあるんですよぉ。あちらのお金持ちの間で評判になっているみたいですねぇ」と。日本人が知らないうちに銘酒が外国へ行ってしまうことにならないように、銘酒の美味しさを日本人が認識したいものです。