餡練り機を捨てた日


昨年のお節料理でも例年通り栗きんとんは80kgを仕込みました。


紅あずまは11月の末から時間のある時を見計らい、少しずつ蒸し、裏ごしして置き、仕上げは店の休日を使って、大鍋で練り上げるまさに体力勝負の仕込仕事です。


16年前に店を新築するときまでは、調理場に和菓子屋さんで使う大きな餡練り機がありました。餡練り機があれば、80kgのきんとんも体力を使わずに1/10の時間でできます。土地代の高い場所の小さな調理場に餡練り機を置くことができなくなって、新築の時に廃棄してしまったのです。すでに当時でもお節料理の時にしか使わないシロモンになっていたからです。


祖父が伝えてきた昔の江戸の仕事には、練り物がつきものでした。婚礼にたっぷり用意するきんとん羊羹は料理店が作るのが当たり前で、ケーキが存在しない時代にはきんとん羊羹の甘さは大層なごちそうであった時代です。


それでも、祖父は「餡練り機なんぞ使ったら栗がつぶれる!」と父の要望をなかなか受け入れなかったと聞きます。先日95歳でなくなった祖父の弟子は、調理場に入った最初の仕事が大鍋のきんとん練りであったといつも語ってくれていました。


それからいくつもの時代を経て、今餡練り機はなくなって大昔のように大鍋で練り上げるように戻りました。


きんとんが甘味のごちそうではなくなり、お節料理のつきものとしてだけの存在になっても、私が仕事をしている間は年末になると大鍋に向かうんでしょうね。80kgのきんとんを練る仕事はそのうち料理人の範疇外の歴史遺産になったりして。。。。