一般人の感覚〜日本酒の場合


一昨日の続き


日本酒の場合、ワインよりもさらにマニアではない一般的な舌感覚を大事にしたいと思っています。


特に、よくお話しをする甘い辛いの基準というのはお客様によって千差万別、十人いれば十通りの甘辛があるといっても過言ではありません。


いつだったかこんなお客様が。


例によって「辛口頂戴」というご注文に、根っからのお酒好きと判断して悦 凱陣神力純米平成十九年を


「こういう甘いのじゃぁだめだなぁ」というご指摘に、喜久酔松下米純米吟醸を・・・「まぁまぁかな。さらさらしていていいじゃない」


ああ、やっぱり辛口じゃぁなくて淡麗が欲しいんだな。。。と八海山蔵元秘蔵・・・とこれも満足していただいて、ちょっと遊び心が芽生えてしまいました。


次にお出ししたのは「辛口の範疇ではないかもしれませんので、お気に召さなければ別のモノにします」・・・と、十四代七垂二十貫。


すると「これだよぉ!こういう辛口がほしかったんだぁ」


味わったことのない方には想像できないかもしれませんが、私の感覚では、甘い辛いの二分割だけ言ってしまえば、凱陣が一番辛くて、十四代がこの中では一番甘さを感じます(私は甘いとは単純に表現することは100%ありませんが)


ことほど左様に日本酒を甘い辛いだけで選別するだけでも、舌の感覚は全く違うのです。一見のお客様のいう「辛口」がどんな辛口なのか一瞬で判断することは至難の業です。


また、別のお客様は黒龍二左衛門を飲まれて、「美味しい、蓬莱泉 空みたいだね」・・・と。大吟醸の経験値が空とその周辺だけであれば、同じ大吟醸という意味では似ているかもしれません。・・・が、私は絶句するしかありませんでした。


しかしながらこういう一般の方々の様々な言葉も自身の身にしなくてはプロフェッショナルといえません。お酒の経験値が多くて味わいの引出が多くなればなるほど、一般人の感覚からずれていって一昨日お話しした唯我独尊にはまり込んでいく可能性があります。日々お客様に接して、どんなお客様がお酒をどのように表現し「美味しい」といい、「口に合わない」とおっしゃるのか?自分の経験だけで無理矢理お酒を組み立てて「俺の選んだヤツを飲んでみろ・・・どうだ!」という邪心が芽生えてしまう前に、毎日のお客様の反応を糧にするべきなのです。それこそが正しい経験値として積み重ねられます。料理店はそういう経験の宝庫です。


お客様に対して「辛口というのはこういうものである」とか「甘い辛いの二分割でお酒を区分けするのはいかがなものか」とか「○○というお酒は○○に似ているという言葉は99%思い込みである」などということは、ほぼありません(恥ずかしながら板前日記ではよく愚痴りますが) それらの日本酒への杞憂は日本酒通に任せておいて、私たちの役割はその日のその席をいかに豊かな時間に仕立て上げるか・・・だけです。日本酒もワインも料理さえもその一役を担うにすぎません。