一般人の感覚


ワインの試飲〜購入を決めるときには、そのワインの数年後の熟成を想像しなければなりません。今美味しいかどうか?はほぼ問題にならないといってもいいくらいです。それにはなんといっても経験値が必要で、飲んだときの味わいが後にどう変化しているのか、初めと何年か後を記憶し、その記憶のストックが多ければ多いほど正しい選択ができるのです。


有名銘柄のビック・ヴィンテージであれば、迷わずに購入することもあるのですが、無名の造り手に初めて出会ったとき、いかにそのワインを評価できるかはワインを扱う人間としてはとても大切な能力です。


一年ほど前、私ン処としてはかなりお手頃な白ワインを奨めてくれるワイン商の方がいて、味わいの奥行きは今ひとつながら香りが素晴らしいと感じて購入したことがあります。早飲みのお手頃ワインとしては買いかな?・・・と。この手のワインは数年の熟成を考えずに、若いうちからどんどん使ってしまうワインです。


先日料理用の白ワインが急遽必要になり、「ああ、あの白ワインなら値段的に使えるな」とセラーから引っ張り出して抜栓すると、たった一年の熟成でふくよかなボディーが加わって、最初からある花のような香りといっしょになって値段以上のワインに変化していたのです。


「こりゃ、料理用ではもったいない」と思うほど。


たった一年でのこの変化は私にはまったく予想できませんでした。これがワインの難しさでもありおもしろさでもあるのです。この変化は造り手の能力の高さなのか、ヴィンテージの優劣によるのか、それらもすべて含めてさらに経験値を増やすいい経験でありました。



・・・と、ここまでは、ワインを扱う料理店であればどこでもやっている極々当たり前の仕事です。


私がもうひとつ加えているのが、このワインをスタッフや友人 連れ合いなどにもたまに味あわせてみて感想を聞くこと。


あるスタッフは「ちょっと水っぽいですねぇ」と一言。


私の「一年の熟成で素晴らしくふくよかで・・・」とは正反対の意見。が、それがとっても大事なのです。日頃から比較的いいワインに触れている人間と、たまにお手頃ワインを飲むことがあるだけの人間、どちらがお客様の側に近いかといえば、圧倒的に後者です。ある意味ワイン馬鹿になって凝り固まった頭に冷水を浴びせてくれることも必要なのですね。


私なら「水っぽい」とは言わずに「チャーミングで軽やか、のどごしが素晴らしい」くらい言うでしょうが、そういう素人の感覚からかけ離れてしまうと唯我独尊のワイン通になってしまいます。これってたぶん日本酒でも同じ。