混ぜる器具


日本料理で混ぜる器具といえば、まず擂り鉢と擂り粉木であったのですが、いまでは擂り鉢で行っていた仕事の2/3はスピードカッター(キュイジナート)にとって変り、さらにそのうちの1/3(特に少量の仕事)は最近使い始めたバーミックスに変りました。


便利です。




父や祖父の代でしたら、「そんな機械モノを使うなんて職人の恥」と思われていましたので、説得するのに大層時間がかかったのでしょうが、今では使い易ければなんでもOKという節操のなさです。



私の修行時代の調理場にはもちろんスピードカッターもバーミックスも存在しませんでした。


確か、まるまる一年、擂り鉢仕事が私の仕込み時間のメインになった時期がありました。


「擂り鉢するだけじゃん」と思われるかもしれませんが、当時の擂り鉢仕事というのはある程度の総合力が必要な内容でした。


その日の献立は前日の内に調理長からお達しがあるわけですが、私の仕事はその献立の全体を眺め、擂り鉢を使う仕事がどこにあるのか、その仕事のための材料がどれだけで、予約分のためには各素材の分量はどれだけ必要か、調味料はなんと何が必要なのか、調理場全体の段取りを考えたときに、他の部署の仕事回りも考えて、どの順番で仕事を進めるかを計算するのです。


朝、立板(修行先ではNO.2>>一番恐れられていた存在)が私達よりも一時間ほどゆっくりと出勤したときには、擂り鉢の仕事別にすべての素材と調味料を区分けして並べ、立板が擂り鉢についたと同時にそれらを次々に差し出すのです。後は私はひたすらモーターの役割、擂り粉木を素材によって違う回し方コネ方で回していくのです。


しかしながら、そこは修行を始めたばかりのボンチャンです。「○○は!?」と並べ忘れた、もしくは理解していなかった材料を鋭く投げつけるように言われて「スンマヘン!」と走り、「その順番じゃぁないだろ!アホ!!」と怒鳴られ・・・をほぼ一時間半繰り返すのです。


あの時にからっとした怒られ漬けがあって、めげないヤツに仕上がったのかもしれません、私。