地産地消と流通革命


今でこそ、「料理は素材が命だ」「素材さえ手に入れば9割の仕事は終了している」などと私自身も立派なことをいっていますが、ほんの30年前、自信の持てる素材を地方都市で手に入れることは至難の業でした。


里芋、海老芋、葱、蕪、大根 手に入る野菜は全国どこでも流通しているものがほとんどで、○○産の○○と地域を限定したり、個人の優良な生産者と直接取引することはできませんでした。それよりも、生産者自体が農協主導で生産性の高い、気候変化にも強い野菜を作って農家の利益をあげることが先決で、地域特産の希少種を保存し伝えていくことはおろそかにされていく時代でした。大根などはいい例で、全国どこでも青首大根だけになっていったのです。いい悪いではなく、そういう時代であったのです。


流通の面でも今のような宅配便が全国各地に巡らされているわけではなく、それよりも少し前、郵便小包で品物を送ることがどれだけ大変出会ったか、今からは想像もできないと思います。大きさの規定、縛り方の規定、荷札をどことどこにつけて・・・がすべてクリアされなければ受け取ってももらえませんでした。郵便も鉄道も、国がらみのお仕事はとかく横柄で面倒くさいことがしばしばであったのです。


私自身、京都まで出かけて京野菜をなんとか定期的に手に入れてみたい・・・と思っても、送料と時間的なラグを考えると無理なことでした。


その後、今のような流通革命と全国各地で優良な生産者が現れて、時代も料理の形態も明らかに変りました。


あれだけ難しかった京野菜は定期的に質のいいモノが手に入り、さらに京都でも生産者の意識が格段にあがっています。短角牛、シャロレー牛ややんばる島豚、庄内三元ヨーク豚、蝦夷鹿、猪、天然鴨、山菜、天然茸、枝豆、江戸前穴子、松輪の魚達などなどなど、この十五年で広がった質の高い生産者達とのお付き合いは、昔を考えると恐ろしいくらいに幅が広がり、素材の力を感じる食材が全国から手に入る時代になったのです。


さらには生産者の意識もこの15-20年の間に格段に高まりました。農協のいうとおり全国皆で同じモノを作るよりは、地域にもっと素晴らしい食材が眠ってはいないか?料理店が望むものはもっと違うのではないか?低価格で外国と戦うよりも、より質の高い物をつくる時代ではないのか?そういう生産者が現れ始めたのはまだまだ最近のことです。とはいえ、志の高い生産者もそれをどこに売っていいものか、どうやって流通ルートにのせられるのか?新たな高いハードルは間違いなく存在します。



苦労してnetよりはるか以前から全国でいい素材を探し、がんばってお付き合いを深めてきた時代を経てきた料理人にしてみると、昨今の地産地消だから素晴らしい、地元食材だから新鮮であるという風潮には簡単にはなじめません。地産地消を推し進める前に、料理人の側から言わせていただければ、もっと優れたものを地元で作っていただきたい、もっと全国、世界を覗いて自分のレベルと認識していただきたい、使いたい食材であるかどうかはそこから始まると思うのです。もちろん地元に素晴らしい生産者いてくだされば顔のみえるお付き合いを密接に深めることもできて相互に高めあうことも可能です。私達自信も育てる努力も必要ですが、生産者も高い志をもたなければならないはずです。


地産地消有機栽培、無農薬、ビオ、スローフード、雰囲気の美しさに踊らされないで、そのものの美味しさが私には一番大切です。