一品料理


店では基本的にコース料理をお客様にご提供しています。


予約をいただく方々の99.9%は事前にコースの内容や予算の相談をし、予算の中で最大限楽しんでいただけるように算段をするのが私の役割です。


リニューアル以前は、一見、予約なしのお客様にも「コース料理のみですがよろしいですか?」とお断りをしてからお部屋にご案内していたわけですが、今回のリニューアル後は、一品料理もあり、できることはなんでもやるように決めました。とはいえ、依然圧倒的にお任せのコースがご注文のほとんどです。



先日のこと


予約なしでふらりと入られたお客様、「一品で選びたい」というご希望で、メニューをお見せしました。


☆自家製唐墨
☆銀杏のすり流し椀 蓮根餅と巻海老 柚子の香り
☆本日のお造り 舞阪産鯛 舞阪産甘鯛昆布〆 〆鯖松輪産
☆大野上庄農協の里芋 鰻印籠煮 京都産菊菜
三河産赤むつ大蒜味噌かけ
御前崎かます酒塩焼き
☆埼玉産うずら炭焼き 達磨正宗古酒ソース


ずらっと献立を眺め、「これじゃぁよくわからないんで、漬物の盛り合わせ持ってきて  でその後、刺身の盛り合わせと天麩羅の盛り合わせ頂戴」・・・と。


漬物の盛り合わせから食べるのかぁ・・・
天麩羅ぁ・・・・海老天なんて何年やってないんだろ? 



心の中で愚痴りつつ
以後は居酒屋さんモードで仕事をこなしてみました。


できる仕事はなんでもやる・・・・とはいえ、これでいいのか?という思いも半分。しかしながら、こうやって料理店を使う人のほうが圧倒的多数であるはずです。


周りを見渡すと、この地で一品料理をやらずにコース料理だけで押し通している和食店は五指に足りないのかもしれません。


お客様のご希望だけで放っておけば、鰹の刺身と焼魚 煮魚 天麩羅 茶碗蒸しだけの店になるのは時間の問題です。消費者はそれを望んでいるのかもしれないと思いつつ、椀物の仕事をきちんとこなし、秋になればジビエに目がいき、最良の地魚の白身や松輪の鯖を当たり前使うことを誇りに思う仕事を維持することは私にとって必須なのです。


一品料理はコース料理中から選んでいただくくらいで勘弁していただいて、どこでも食べられる料理ではなくて「私の料理」と「私の選んだお酒」を召し上がっていただく店が揺らがないようにしてみたいものです。


漬物の盛り合わせと鰹の刺身で焼酎のお茶割りを飲むよりも、自家製唐墨で秋あがりの大吟の喉を湿らして、私のお椀を食しつつ次のお酒を待つほうが豊かですよぉ。