ならず者は来ない


夜の商売で、しかも、お酒は店の大切なファクターであるのに、思い返してみると、お得意様・・・だけでなく一見のお客様の中にも、件の歌舞伎役者のように深酒をして暴れたり、喧嘩をしたりというようなならず者はこれまで一人もいませんでした。少なくとも私がこの地に帰ってから30数年の間には。


もっとやさしく、酔ってフラフラになる方や、トイレで便器をお友達にするほど飲みすぎる方も、一年のうちに「あの方とあの方」と思い返せるほど超少数なのです。


皆さんお酒を楽しみ、ほどよく酔ってニコニコお帰りになる方ばかりなのは、料理屋としてはもう信じられないくらい恵まれています。


外国の事情をよくご存知のお客様に伺うと、ヨーロッパや南米などの酒場のランチキぶりときたら凄まじいもので、ワールドカップなんていう時期には怖くて近寄れない・・・とおっしゃいます。日本の酔っ払いの暴れ方なんてかわいいもの・・・なんだそうです。


お客様はもちろん、友人にも酒の癖がよくない人間がいないものですから、今回の歌舞伎役者の件を聞くと、ならず者が集まるところには自然にそういう人間が集まり、酒場もそういう雰囲気になるものなのだと理解したりします。


私がこの仕事に入った頃までのような、酔うためのお酒から、今では味わい楽しむためのお酒に確実に進化しています。少なくとも、私の店では。