林檎畑を通ってきた風の匂い


調べ物をしていて目にとまった倉橋由美子さん「城の中の城」の一節


「林檎畑を通ってきた風の匂いがする。それとも半輪の月を浮かべて溶かしたような水と言ふか、とにかく」と耕一君はもう一度口に含んでから言った。「これは酒の匂いがしなくていくらでも飲める」
「お米を玉のように磨いて、特別の水で特別に造ってたまたま見事にできたのださうです」
吟醸」と桂子さんが言つた。


1980年の作品。


思い返せば、私に文学的な素養があれば初めて吟醸酒に出会ったときにこんな表現をしていたのでしょうか。その頃、新酒の搾りたて生を亀口から注いで飲むと、確かに青林檎の香りがする・・・と私自身驚いていたのです。1980年昭和55年と当時の日本酒を取り巻く状況はそんなんでした。