進化する老舗洋食屋さん


街の洋食屋さんの多くはファミレスにとって代わられました。


ハンバーグステーキ エビフライ ビーフカツ タンシチュー きちんと仕込まれたドミグラスソース ちょっと固めに炊き上げたご飯と味噌汁。 


私が子供頃、休日の夜ご飯の中でも特別な日に出かける場所であった街の洋食屋さん。今この地で正しい形で生き残っているのは2-3軒くらいでしょうか。


中でも一番の老舗「キッチン トム」さんに伺ってきました。


前回久しぶりに伺ったとき、明らかに献立に変化があって、これはどうみても修行からもどった若旦那の意思が献立に反映してきたんだとわかる内容でした。連れ合いと「うーーん、これ、いいよね」と確認しあったのです。後日、同じ町内の同業の仲間とそんな話をしたとき、「今度”若旦那のお奨め”で食べてみてください。がんばってますよ」と教えてくれました。


リニューアルほかで、休日もあまり食べに出かけることが少なくなっていた昨今であったのですが、昨日久しぶりに「トム」さんに電話をいれ、「若旦那のお奨めを」とお願いをしたのでした。


前菜に出てきたのは「笹蟹の味噌 甘鯛 甘鯛の鱗のカリカリ揚げ 牛肉とルッコラ 天然鰻の肝 上質なハモン・セラーノと新栗」味にメリハリがあって、笹蟹 甘鯛 天然鰻 ハモン・セラーノという素材に真摯に向き合う姿勢がすでに最初の一皿から充分にうかがえます。日曜日の急な予約でもこの素材を用意してあることが素晴らしい。


二品目は「天然鰻と牛蒡」 鰻はパリパリにソテーされ塩味のパンチが効いています。牛蒡との組み合わせがたいへんよろしい。


三品目に「笹蟹のグラタン」 これからベストシーズンを迎える笹蟹がしっとりしています。肉類はお父様のころから選んだ素材しか使っていらっしゃらなかったのは知っていても(そうそうエビフライも車海老が当たり前の店でした)、若旦那は海のものにも素材に妥協がないのは下手な和食屋を遥かに超えています。


四品目はお得意の「ビーフシチューとイベリコ豚タンのフライ」 嬉しいのはここでご飯をいただけること。この店のドミグラス(グレイビーソース)はご飯にピッタリなのです。さらにあしらいの野菜も茄子 南京・・・と季節のものしか使っていないという造り手の強い意思を感じます。



未だ献立のメインは昔ながらの仕事ながら、控えめに書かれているお奨めコースに順調に進みつつある代替わりへの準備が見て取れます。そしてその代替わりには手法は違っても素材に妥協しないという、先々代から受け継がれてきた「濃い血」が脈々と流れているように思えました。だからこそ、多くが閉店してしまった街の洋食屋さんの中で一番の老舗が生き残り、進化し続けているのです。


親を否定することで道を見つけようとしたボンクラな私ン処とはえらい違いだ。