化粧塩


鮎や鯛を姿のまま塩焼きにするときには、以前は必ず化粧塩というのをしました。


尾びれ 背びれ 腹びれに荒塩をぬって焼くのです。そうすると最初にこげてしまうひれの部分が塩に守られて比較的きれいに塩焼きが仕上がります。


若い時分に「塩焼きはそういうもんだ」と教えられるとなかなかそこから抜け出せないものです。意を決しないと焼く前、自然に化粧塩をぬっていたりするのですから始末が悪いのです。


さらに、職人として雇われている身分でいると、知らず知らずのうちに「美味しく焼く」以上に「きれいに焼く」ことに集中してしまったりします。きれいに焼きあがった鮎の塩焼きを見て自己満足に浸ってしまうのです。


これがまずい。


塩焼きなんてものは美しく焼くよりも、豪快にぎりぎりのところで焦げ目と美味しさのバランスが取れるように焼くべきなのです。そう思い至った40代初めの頃、やっと化粧塩と縁を切りました。職人的に美しく焼くことを眼中に置かなければ焦げるべきところがこげているほうが自然で美味しいのですね。


鮎はこんな風に備長炭の加減がベストのところで。