修行時代と今


学校を卒業して大坂へ修行に出た頃、毎日先輩達よりほんのちょっと早く調理場に入り、ほんのちょっと遅く調理場から退出しようと思っていました。現実的に考えれば、だからといって仕事を早く覚えたと思えるほどの才覚があったわけではないわけで、ただの自己満足でありました。


朝、調理場に入るのが8:30、夜終わるのが23:00 銭湯の終了ぎりぎりに滑り込む毎日で、大学ゼミの一流企業に入社していった同級生達よりもきっと私のほうが長く働き、安い給料に違いない。この修行に絶えられればどこでも通用するに違いない・・・・と思い込んでいました。


あれから三十年、気づいたことは、ちょっと一生懸命まじめな仕事をしようと思っている料理人のほとんどが8:30-23:00くらいは当たり前にこなしているということです。この業界の常識です。


今の店のを新築した15年前から今まで、7:30には仕入れに出かけ、23:00-24:00終了をずっと続けていることを思うと、「8:30-23:00」を心の中で自慢げにしていたのはまったくのオトボケなわけです。さらにはリニューアル・オープン前後からこの1-2週間は間の休憩時間もなくなって、実際よく働いているな・・・と思ってしまうほどです。


でも
大きく違うのは、修行時代はこの長時間に耐えていたという事実に反して、自分が頭に立ってからは長時間であろうが休憩が無かろうが仕事が楽しいという事実。


長く働いているから偉いわけではちっともなくて、長く働かなくてはならないのは、仕事の段取りや効率が悪かったり、利益に対する認識が甘かったりするだけなわけかもしれないのです。


長時間働いても大きくは儲からないとしても、お席からもどってくる皿がきれいに食べ終わられているのを見たとき、お帰りになるときのお客様の笑顔を見たとき、やっぱりこの仕事を選んでよかったな・・・と思うのです。それが30数年間の実感。