一人仕事へ


大正期に店が始まって以来、若いスタッフのいない調理場は一度もありませんでした。


必ず誰かしら修行をする若者がいて、若い人材を育てることも大切な店の使命と思っていました。


状況が変り始めたのは5-6年前?いえ、実際にはもっと前であったかもしれません。


放っておいても修行志願者はいくらでもいるという時代はすでに昭和で終わってしまっていました。一度修行に入れば最低三年は・・・というのもたぶん昭和のお話。何しろ、調理師学校に和食志願者、特に個人店を希望する若者がほとんどいないのです。人材が少なければ質が落ちることも当然です。調理師学校の講師を長年務めたのも若い人手を得るための手段のひとつでもありました。


店の売上と規模を維持するために若者の人材確保に四苦八苦することをやめてしまう・・・踏ん切りのつかなかった大きなハードルは、越えてしまうと案外簡単なことでした。そのために店のサイズはコンパクトにすることは必須でした。


すでに「ゆとり世代」になった若者を育てることを眼中に入れなくていいというのが、こんなに精神的にストレスのないことだとは予想もしませんでした。少々自分の仕事が増えても全く気になりません。育てる難しさを抱えなくていい、人間関係の軋轢に苦しまなくていい・・・踏ん切りをつけてみると、人に仕事をさせて身体が楽になるよりは、人を使わなくてストレスをためないほうがずっと精神衛生上よろしいのです。


人生の仕事最後の10-15年を、もう一度一職人に立ち返るという意味でも一人仕事はやりがいのあることです。若者にはもう頼りません。