日本酒の時代


古来より現代まで通して今ほど日本酒が美味しい時期はありません。「今飲まないでどうする」と強調したいほど洗礼が進み、味わいが多方向に渡ってきています。


日本酒のレベルがあがっている・・・とはいえ、誰が飲んでもうなるほど美味しい、値段がこなれているという、店にいつでもおきたいと思うほどいいお酒に出会うのはやっぱり大変です。


試飲会に出かけても一般の方々晩酌で飲むレベルでは充分に美味しいものはたくさんあっても、店で使えるものは少ないのです。そういう蔵に出会うのは一年にひとつあるかどうか・・・くらい。


まっ、他では飲めないから、手に入らないからという理由が店で扱うには大切なことでもあるわけですが。


そうやって集めたお酒をお任せいただいてお客様に楽しんでいただくとき、よく「綺麗なお酒のラインアップが多いんですね」とか「ああ、親方ってこういうお酒がすきなのね」などと評価されることがあります。


決して単一な味わいのお酒ばかりを置いているわけではなく、香りがあってふくよかな味わいのもの、切れ味重視のもの、酸が高くてすっきり感あるもの、味わいが濃厚で奥行きのあるもの、ひね香があって余韻が深いもの、甘みがあるのに後味にはべとつき感がないものなどなど様々な種類を使っているのですが、どれもお客様に受けるわけではありません。というよりも実際には、よく言えば味わいの好みに自己主張がある方、悪く言えば味わいの幅がなくて融通が利かない方が結構たくさんいらっしゃるのです。


酸度の高いものはすっぱくてだめとか、ひね香りは受け付けられないとか、甘いお酒はすべてだめとか、ふくよかを甘さと勘違いされていたりとか。


人の舌のことですから無理はいえませんが、味わいの範囲の狭い方をみると、「ずいぶんといいものを見逃して損をしていらしゃるな」と思うのです。


これほどバリエーションが豊かになった日本酒、好き嫌いを超越したところでじっくりすべてを受け入れるつもりで飲んでみると新しい世界が広がってくるかもしれません。いいお酒を評価できる舌を養い、美酒に感動する能力が広がるのは人生をより豊かにしてくれるはずです。