職人育成


昨日の日記で「認識不足」と書いたのは、若者を取り巻く職人への意識の現状の”私の”認識不足の意味でした。


若者の料理人への憧れや料理に対する夢はメディアではもうちょっと高く、ステキに語られることが多いせいか、いつの間にか現場にいるにも関わらず料理を志す意欲あふれた若者に期待していたのです。



30年前、店に修行にやってくる若者はこちらから活動を仕掛けなくても一年に1-2人は必ずやってきました。しかも調理師学校や高校からではなくて、信頼のおける人の紹介で。そうやって入店する子達は三年以下で辞めてしまうこともほとんどありませんでした。一年や二年で辞めることは紹介者に対して申し訳の立たない所業と思われましたし、本人にとっても恥でした。そんな風潮は父や祖父の時代にはもっと厳しく、いわゆる徒弟制度がしっかり世の中で通用していた時代でした。


明らかに変ったな・・・と思ったのは25年位前のこと、職人である父親と挨拶にやってきた高校出立ての若者が「給料はいくらでしょうか?」と聞いた時でした。そんな時代になったんだなぁ。。。と思ったその子はやはり一年ちょっとで辞めていきました。


その頃からでしょうか、三年以上務める子は5人に一人くらいになり、店は働き手としての若者を得るための就職活動(?)をしないと、のほほんとしていても修行希望の若者はやってはこない時代に突入しました。


調理師学校の講師を務めたり、学校周りをしたり、就職説明会に参加したり・・・と学校とのお付き合いを大切にし、機会があれば生徒達に料理の世界の面白さと、ちょっと控えめに自分の店が職人としての技術を身に付けるうえでいかに適切かをうったえてきました。料理講習でレベルの高い仕事を見せ付ければ、100人近い受講生のひとりやふたりは「あの親方の下で・・・」くらいに思ってくれるのではないかと思っていましたし、研修にやってくる生徒が一ヶ月も店の仕事を見れば「あの店に是非」と思ってくれるに違いないという幻想を大いにいだいていたのです。しかしそれらは全くの幻想でした。20年以上続いた調理師学校の料理講習を見て私ン処の門をたたいた若者は極々極少数でしたし、研修生がそのまま店に入ったことも数えるほどでした。


昨日お話したように、日本料理を学びたいという若者は少なく、職人として一人前になりたいという若者は絶滅危惧種並みに極小であるという事実を正面から受け止めていなかったのです。そして何より私の教育者としての資質の欠如に問題がありました。


私自身の引退を視野に入れつつつらつら考えてみると、若者を育てるという私には全く不向きであった仕事はもう諦めて、自身の仕事だけを見つめ精度を高めていくことに修身するべき時になりました。


「悲しい」と思われるかもしれませんが、こと日本料理の世界ではもう若者に幻想はいだきません。キムタク主演で職人の世界でも描くドラマでも放送されれば劇的な変化があるかもしれませんが。。。(中居クンのヤツはありましたっけ・・・やっぱり幻想だ)