音楽好きの人口


ジャズピアニストにして、日本を代表する作曲編曲家である守屋純子さんは文章も秀逸で、「なぜ牛丼屋でジャズがかかっているの?」 という本を出しています。


中で彼女は
”なぜ牛丼屋ではいつもBGMにジャズがかかっているのだろう。ふとそう思ったことはありませんか?カフェ、定食屋、そば屋、居酒屋、クリーニング屋まで…。来日したジャズミュージシャンは、「日本は本当にジャズが盛んな国なんだね!」と言います。演歌やJ‐POPより、何となくオシャレで高級。400~500円の牛丼でも高いものを食べているような錯覚が起きるから不思議”と書かれています。


ジャズがBGMに選ばれるのはクラシックほど堅苦しさを感じず、演歌よりも高級感があるから・・・なるほど。もともとのジャズ好きには高級感なんぞ考えたこともないものですから、「そんなもんなんだねぇ」と納得するわけです。


今では有線放送で選べるジャズにもいくつも種類があるらしく、先日立ち寄った本屋で流れていたのはブラウニー・・・かと思うと、ブッカー・リトルリー・モーガンとランダムにかかりながら統一性があります。真剣に聴く人なんていないBGMにも作る側は一生懸命なんだぁ・・・と感心したりしました。


こんな風に有線でもかなりセンスを感じる選曲がされていることを知った今では、ほとんど失態を演じることはないのですが、一昔前、ご主人の顔が見える(趣味がわかる)店でセンスのいい選曲のジャズが流れていたりすると、「きっとこの方もジャズファン?しかもコアな?」と話しかけると「有線です」とすげなく答えられたことが何度かあります。全く愚かモノの私です。


大体人はいつも自分中心に物事を考えがちで、音楽の趣味もきっと似通った人がそれなりにいるに違いないなどと大きな誤解をしてしまいました。ジャズファンなんて少数も少数、極小派の趣味なのです。件の守屋純子さんが店に寄ってくださったとき、「ジャズのCDなんてほーんと売れないんですから。あのチック・コリアだって一万枚いかないんですよぉ」と聞きちょっとショックでした。それでもジャズはBGMには選ばれるんですね。



そんな少数派のジャズなのですが、先日めったに乗らないタクシーで、運転手の一言紹介みたいな文章が貼ってあるのに気づきました。「○木○男です。ジャズ大好き人間、スウィングジャズなんか大好きです」と書いてあるではありませんか。あまり積極的に運転手さんと話したいと思う方ではないのですが、世間話を振られたついでに「ジャズがお好きなんですかぁ。スウィングって誰のファンなんですか?」と聞くと「ベニー・グッドマン茶色の小瓶とかいいですね」と、まっ、ありきたりな答えが返ってきました。


ベニー・グッドマンいいですねぇ。グレン・ミラーなんてどうですか?」とほんのちょっと広げてみると、「ええ、もちろんです。トミー・ドシーも好きですよ」


おお、どんどん広がりそう。。。


「本当にお好きなんですねぇ」と私。
「はい、昔トランペット吹いてましてね」
「ああ、そうなんですか、地元でですか?」
「いえいえ、東京のビックバンドで」
「ええ!どちらのバンドですか」
とここまで来ると運転手さんもこちらのジャズ好きを察知してようで

「チャーリーさん処で二十年くらい。体壊しちゃって地元に帰ってきたんですよぉ」


どひゃぁ。。。チャーリー石黒〜東京パンチョスの元モノホンプロでした。


私、ぐっとへりくだって
「アマチュアですが、私もフルバンやってました」


と、目的地までジャズ話は弾む弾む。


極少が出会った稀有な経験。