ワイングラス


ワインを大切な飲み物として扱っている料理店では、グラスもそれなりのものを使っています。


よく見るのはこれでもか・・・というほど大きなボール型ややや縦長のグラスです。


私が初めてワインを飲んだ1970年代にはあんなグラスを日本で一般的に見かけることはありませんでした。シャンパンだって今のようにフルート型ではなくてお椀をさかさにしたような型。もっと厚くて形状もずっと小ぶりで、高級感を出すためにはカットをほどこしてあるか色付けしてあることが普通でした。贈り物などでいただくグラスにシンプルなものを探す方が苦労するような時代が長く続いていました。


店でもワインを出すようになった20年くらい前「リーデル?それどこの国のグラスですか?」と聞いていたくらいです。たぶん1990年代になってやっと今のような大ぶりで薄手、シンプルなグラスが普及するようになったのです。


先日NHKTV「美の壺」のワイングラス編でリーデルが今のようなグラスを思いついたのは1950年代のことだ知って、「なぁぁんだ、本家本元でもたった半世紀前のお話なんだぁ」と納得しました。長いワインの歴史の中でも、グラスをぶん回したり、顔ごとワインのグラスにうずめるようにして香りを楽しんだりなどというスノッブな行為はリーデルのグラスが普及しなければありえなかったことなのです。


とかく型にとらわれがちなワインを取り巻く様々な行状には、それほど伝統的な長い歴史の中で育まれたものではないものも多いのです。特に日本ではワインは文化として高尚に扱われがち。でもグラスひとつとっても大した歴史がないように、ワイン自体ほんの20-30年ほどの舶来文化です。「ワインはわからない」とおっしゃる多くの方、したり顔で語る(ワインの場合とても多いわけですが)ワイン通だって二代三代続くワイナー(ワインラバー)ワインコレクターなんて日本にはいないのです。安心して「こうあるべき」とこだわらずに美味しいものだけを好きなように飲みましょう。


近頃好んでこんな昔話をするのは、今、当たり前に行われている数々のことがそんなに歴史のある伝統的なことではないという事実をお知らせしたいため。そして私が知る20年30年40年前の世の中の状況とくに時代の空気を個人の感じたままに伝えたいと思うためです。私自身がそうなのですが、昔の事実が今現在と同じような空気の中で起こっていたと誤解すると間違った解釈をしてしまいがちなのですよぉ。