料理人必読


直木賞をとる以前にお得意様からお奨めしていただいていた山本兼一利休にたずねよ」 料理人必読の書です。


美意識とは何かをこの本では理解はできなくても一端を感じることができます。


茶の湯を経験することなく取材だけでここまで書き上げたとしたら、それはもう悪魔の仕業としかいいようがないほど、茶の湯の作法からその根底に流れる美の世界まで見事に描き出しています。所作を学ぶためだけに茶道を習う方々には縁のない美意識の世界です。


ずっと以前に「青山二郎の凄さがちっとも理解できない」と書いたことがありますが、利休、光悦、近くは魯山人柳宗悦青山二郎という美意識の権化のような存在は、自ら工芸品を創らなくとも、人々が気づかない美の存在を明らかにし美しいものを貪欲に鑑賞する能力に跳びぬけて長けた人々です。特に利休はそれらを茶の湯という世界でコーディネイトすることで、「ただ茶を飲む」ことを芸術に昇華してしまったアーティストです。どういう風にそれらがなされ、権力者たちに使われ自らも使っていったのか、この本は小説という形で読み解いています。それはもう早く読み進んでしまうのが惜しいほど丹念に美しく。


利休以降、お茶を飲み食べ物を食することを美にまで高められた人は、魯山人湯木貞一以外私は知りません。料理人の究極の到達点としての利休の形を少しでも知ることは料理人にとっても大切なことのはず。私の場合本を読みながらただただ圧倒されながら萎れてしまったのですが。