北大路魯山人


魯山人のことを知ったのは20代前半のこと。その当時は今のように食への関心も高くなく、魯山人の認知度はずっと低いものでした。周りの職人仲間の間でさえ魯山人はまだ未知の存在で、私は自分自身の技術が稚拙な分理論武装で勝負しようと、ここぞとばかりに関連著作を読み展覧会へ足を運びました。駆け出しの私には目の前で見る魯山人の書画陶作はとても刺激的でした。なにしろ図鑑でイメージしていた椿文大鉢や俎板皿の実物は大きさが想像の三倍はあって、私の盛り付けのちんけな感覚は見事に打ち砕かれたのでした。「この器にどんな料理を・・・?」凡人の感性をはるかに超えています。


その頃には魯山人の著作集もまだ出版されていなくて、伝記としては白崎秀雄さんの「小説 北大路魯山人」は右に出るものはない存在だと思っていました。


ところが、私が触れてきた魯山人なんぞほんの端くれ、氷山の一角でしかなかったことがわかりました(もともとすべての関係著作を読んだわけではありませんが)


「知られざる魯山人」山田和


まだ本の全編の四分の一ほどしか読んでいないのにその圧倒的な取材力と、魯山人を語る上での素性の確かさ、美術を語る説得力、そしてなにより「私がやらずして・・・」という意気込みにたじたじとしています。


全部読み終えたときには魯山人を語るには言葉少なになるに違いありません。