伝説の還暦

clementia2008-04-23



兵庫県は安富町 下村酒造「奥播磨」は店でも大切にしている日本酒の一つです。


平成十年、当時の高垣杜氏の還暦を記念して造られた「還暦」というお酒がありました。お祝いのお酒ですから後にも先にもこの年のみ。純米の米の旨みの凝縮感、キレイなやさしい酸味、後味はもちろんスッキリしているのに長い余韻を感じさせます。


数百本のみ造られた稀少なお酒を私ン処ではずいぶんたくさん使わせていただいたのですが、残念ながら蔵の在庫が終ればお仕舞。お得意様の中には「このお酒を飲みきってしまったら俺は生きていく甲斐がなくなる」とまでおっしゃる方までいらっしゃったほど評価の高かったお酒です。


「また同じようなお酒造ってくださいよぉ」酒屋さんを通じてお願いしても、「あんな面倒な造りはもう無理」と同レベルの極上はその後造られませんでした。


私の店では伝説となった「還暦」が酒屋さんの冷蔵庫に二本だけ残されていました。本当は買い手がちゃんといて、その方のためにとり置きされていたお酒が、ゆえあって行き場を失ってしまったといういわくつきのシロモンです。


10年前に還暦をむかえ、その後徳島の芳水に移り、活躍された高垣さんもいよいよ引退と聞きます。伝説の「還暦」の最後の一滴です。