未発表の金子光晴


NHK教育で見た金子光晴の未発表詩集「父とチャコとボコ〜金子光晴・家族の戦中詩〜」


金子光晴家族が戦争末期に山中湖畔に疎開していた当時綴られた家族三人の詩を編んだものが、昨年古書店で発見されました。


開戦前から日本の戦争へと向かう世相を厳しく批判してきた時期の金子作品は、常に私の愛読の詩でした。


「おっとせい」「鮫」「寂しさの歌」


特に「寂しさの歌」は、若い頃アメリカで半年の貧乏旅行をしている間も、自分の中の日本人を意識するために持ち歩いていつも読んでいたほど思い入れのある詩です。今読んでもこの詩の中には変わらない日本人のエッセンスがつまっています。


戦争も末期を迎える頃金子一家は、息子の乾(けん)の徴兵を逃れるために、山中湖半に疎開し、検査前に息子を煙でいぶして肺病を画策したり、偽の診断書を作らせたりして、理不尽な戦争に最愛の子供をとられないためのあらゆる手段を講じていた時期でした。当時の若者も徴兵による無意味な死を目の前にして、「最愛の家族のため後の日本のために」と自らを納得させて戦地へと赴きました。徴兵を逃れること自体「卑怯者」の仕業と取られるような世相の中で、世間の風潮など関係なく愛する家族のために徴兵逃れに奔走した時期の金子一家の詩に重みがあります。


変わらないことは理不尽な権力なんぞに愛するものを奪われてなるものかという強い意志です。金子光晴の生涯と詩作、散文を見るにつけ「どんな形であっても国家による暴力に阿(おもね)てはならない」と思うのです。