お客様との距離


お客様との距離のとり方というのは難しいものです。一生の課題です。


お得意様になればなるほどお話が親密になるのは当然のこととしても、客と店のラインはキッチリしていなくてはいけません。お天気の話題や食材、料理、お酒の話題であればどのようにも対処できても、プライベートなお話には気を使います。


先日のこと、年に何回もお寄りいただくご夫妻、奥様に「あれ?奥様、お痩せになられましたか?」とお尋ねしました。


危険な話題です。女性にとって「痩せました?」と聞くことは状況によっては嬉しいような嬉しくないような。病気でもして明らかに痩せられた方には絶対に触れてはいけない話題ですし、実際には太ってしまった方に「痩せましたか?」では気を悪くなさいます。但し、がんばってダイエットを成功された方には、「痩せました?」は自分の努力が目に見えたことのご褒美になる問いかけになることは間違いありません。


今回は後者でした(ホッ)


「親方ありがとうぉぉ。男どもは(同席していた)だれも気づいてくれなかったのに親方だけねぇ。がんばって10kg」と、後はダイエットの話題に花が咲き、お座敷に雰囲気は上々になっていきます。女性のご機嫌がいいことはなによりも正しいことなのです。確かにこの奥様、私が以前にダイエットをしたときのようにやつれた感が全くなくて、素晴らしく上手に痩せられていたのでした。


もともとが話題の懐が深いお得意様だからこそそんなお話が出来たわけで、お客様の筋を見誤ってはお得意を一つ減らしかねない話題なのです。お客様の問いかけ以外にはなにも答えなければ過不足なくサービスもできるのですが、場の空気を読んでより華やいだものに出来たとしたら、それも料理屋としては料理以上に大切な仕事の一つになります。


出すぎず引き過ぎず。。。。出過ぎがちの私にはやっぱり一生の課題です。