掘りごたつ式


店を建て直した11年前、お座敷の形式に掘りごたつ式を考えたことはないわけではありませんでした。


ただ、掘りごたつ式のお座敷は居酒屋さんの宴会用のもの・・・という認識が当時はあったのです。たった10年ちょっと前のことです。ちゃんとしたご接待でも使っていただくお座敷に掘りごたつはないだろう・・・と思っていたのです。日本料理を食べるのはちゃんと正座するか胡坐をかくかしかない、掘りごたつ式は足の悪い方や外国の方のためのものであったのです。


ところがどうでしょう。たった10年で世の中は「掘りごたつでなければ予約をしない」とまでいわれる時代になってしまいました。実際一般家庭で畳に座ることはますます少なくなっています。


日本人の食事のライフスタイルは大きく変化してきました。私の子供の頃は卓袱台(ちゃぶだい)に家族が丸くなって座る時代でした。茶の間は一家団欒の場であり、卓袱台を取り除けば寝室でもありました。日本が貧しかった時代には寝室と客間、食卓の区別などないのが当たり前で、椅子の生活はアメリカの裕福な夢の暮らしでした。時代が進み、台所に食卓があるのが一般的になり、椅子に座って食事をする時代になり、次には台所にカウンターの付く生活、そして台所とダイニングが別になる生活がやってきました。子供の頃にはアメリカでも裕福な家庭の象徴であったダイニングのある生活が特別なものではなくなったのです。いずれにしても椅子に座って食べる生活が普通で、正座をして食事をするのは少数派になっているのが圧倒的な現状です。そういう方々にお座敷での食事を強いるのはすでに時代遅れになりつつあるのかもしれません。徐々にしかし一気に時代は動いているのです。


大体正座で食事をしてきた卓袱台世代の方々が膝、足が痛くて正座ができないと悲鳴をあげているのです。先日も予約にお見えになった初老のご婦人方の忘年会の予約では「あれまっ、こちらは掘りごたつはないの?二階に上がるのにエレベーターはないの?」としゃいます。法事のお席ともなれば膝が痛くて、脚が悪くてというお年寄りがかならず二三人以上はいるのが一般的になっています。


掘りごたつなんて日本料理店のものではない、なんていう10年前の認識こそが、古い世代に受け入れられなくなっているのです。


さて、掘りごたつ式にするには建築構造上の問題がある私ン処、「昔はいいもんだ」といわれるまで待つべきか??