新装開店間近


若い修行時代から知っているフレンチ職人さんが初めて店を持ちます。明日が開店日。


追い回しの頃、店の前の掃除を始めた彼は、ついでに向う三軒両隣の家の前も掃き清め、一日ごとに掃除の範囲が広がっていって、しまいには150mもある通りを毎日すべて掃除をしてしまうような若者でした。そういう真面目さが信頼されないわけがありません。


そういう姿勢は料理にも確実に反映します。そんな彼が持つ店はキャパ15人くらいのこじんまりしたビストロ。お客様一人ひとりに目の届く大きさです。


巷では料理の世界でもグローバル化大型化はますます進み、全国に何百店舗も展開するような飲食店ばかりが流行り、とうちゃんかあちゃんの小さな店のやりくりは年々厳しくなっています。大企業飲食店の社長は「お客様の笑顔」「おもてなしの心」を標榜しますが、末端のアルバイトのお兄ちゃんが隣の店の前まで掃除しているような店はできにくいのが現実です。


料理店は基本的に個人の能力がそのまま現るもので、そういう料理店こそが評価されなくてはいけません。こじんまり一生懸命料理に取り組み、主人の顔が見える店がなくなり、ヤッツケ店長とアルバイト集団の巨大店ばかりが生き残るような民度の低い土地柄ではないはずと信じて新しく意欲に燃えた個人店を応援していきたいと思います。


それにしても、私の場合、修行から帰ればすでに店はそこにあり、お得意様もすでに存在して、店を建て直すとなれば銀行がすんなりと融資を了解してくれるような環境にいた私のなんと幸せなことか。これで泣き言を言っていたら罰が当たりますよね。