弟子虐待

 
相撲の世界では弟子の虐待が大変な話題になっています。虐待はありえませんが、我々の世界でも弟子に厳しいのは当たり前のように思われています。


先日お客様がある高級店のお話をしてくださいました。若いご主人の仕事が素晴らしく、私も以前から一度勉強させていただきたいと思っていた店です。お客様も噂の以上の美味しさに感動されたのだそうです。ところが、調理場が見える形態のその店では、親方が弟子たちに厳しく当たる姿が丸見えなのが辛かったとおっしゃるのです。叱責するだけでなく蹴飛ばしたりするのが見えてしまうのは確かにお客様の気持ちを萎えさせます。


弟子に厳しいのは妥協のないいい仕事ゆえとも考えられますが、なにより料理屋は美味しさ以上に心地よさを売る仕事です。美味しいと同レベルで隅々まで掃除が行き渡っているとか、サービスが気持ちいいとかが実現されなければいけません。調理場が見えるカウンター形式であれば、板前が立ち働く姿も「売り」の一つにならなければならないのです。


私も以前にある超高級店のカウンター席で親方が常に弟子に小言を言っている店で食事をしたことがあります。「この小言があるから若い連中が育っていくのかなぁ?」とほんのちょっと思いつつも、今思い返せるのは店の味ではなくて親方の小言だけだったりします。総額4〜5万円を払って小言が思い出というのもちょっときついものです。


かくいう私は、めったに若いスタッフを調理場で悪し様にしかることはないのですが、10年に一回くらい堪忍袋の緒が切れることがあります。実際にはそんなときにもいつ怒るべきかを計算していて、カウンター席にお客様がいらっしゃらない時、起こるべきタイミングを3〜4日くらい前から狙っていたりするのですね。こういうのってあまり賢い怒りかではないと知りつつこういうカッコウでしか対応できない自分が情けない。