板の前〜昨日の続き


昨日の続き


「料理の仕事なんぞ、地道に続ければだれでも身につくものである」と言ったばかりではあるのですが、そんな風に思えるようになったのは実はつい最近のこと。30年も仕事をしてきてやっとたどり着いたともいえることを考えるとあまり大きなことは言えません。


30代半ばに先代が亡くなり、料理の仕事も経営もすべて自分の肩にかかってきました。店自体は先代先々代が培ってくれたお得意様にも恵まれ、傍から見ればゆるぎない老舗に見えたでしょうが、自分自身はすでに10数年の経験の料理人でありながら「誰でも身につける」などとはとてもいえないヨタヨタの料理人でありました。自分の料理はこういう風でいいのではないかと自身らしきものが芽生えてきたのが40代に入ってから。やっと板前と呼ばれてもしっくり感じるようになのに20年の経験が必要でした。


ですから、20代で独立する多くの料理人や、メディアで胸を張って「私の料理は・・・」と言える経験10年以下の料理人さんをみると掛け値なく「すごいもんだ」「えらいもんだ」と恐れ入ってしまうのであります。「誰でも身につく仕事」を実際身につけるまで20年、本当に鈍なヤツです。