日本代表


日本ではいくつかのブームを経てワインの認識はとても高まっています。このところお話が続いているブルゴーニュ・ワインなど、つい十年ちょっと前まで造り手個人の情報もあまり入手できませんでしたが、netの時流に乗って加速度的にマニアックとも思えるようなワイン情報があふれるようになりました。


逆はいかがなものか。ブルゴーニュのみならず、フランス(パリでさえ)では日本酒の認識はきわめて低いのだと媚竈 (びそう)さんに教えていただきました。日本酒の本来の姿が理解されているとはとても思えないような状況は、天婦羅、寿司、すき焼きさえ用意すれば日本料理店と思ってもらえる諸外国の日本料理のイメージ以上に厳しい状況のようです。


そういう環境で、乾坤一 泉橋 喜久酔 満寿泉 松の司 澤屋まつもと 凱陣 達磨正宗などという日本酒のラインアップでワインの聖地で勝負する媚竈 (びそう)さんの姿勢は「孤軍奮闘」という言葉がまさに当てはまるような思いです。


もちろん、名だたるブルゴーニュ・ワインの造り手たちが店のお得意であるのは、ご主人と奥様のワインへの見識の高さゆえです。媚竈 (びそう)のワイン・リストを拝見すれば日本酒以上にワインへの傾倒が見て取れます。世界中の日本料理店を全部引き合いに出しても、これほど充実したワイン・リストを日本料理店に見ることは出来ません。ご夫婦で休日ともなればドメーニュ、シャトーを巡り、試飲を重ね、造り手との人間関係を密にしていらっしゃればこそのワインへの造詣の深さです。聞けば、フランスの日本料理店でもワインに熱心な店は数えるほどしかないのだそうです。ブルゴーニュの地で、本格的な日本料理と真っ当な選ばれた日本酒だけを並べ、ブルゴーニュ・ワインへの尊敬と愛情を店で表現している媚竈 (びそう)さんの仕事っぷりを見れば、近頃話題になった「海外の日本料理店にお上が“お墨付き”を与えて・・・」などという多くの「なんちゃって日本料理店」とは違うステージの店であることがわかります。


さらに、このご夫婦の人柄は、板前にありがちなやくざなところや女将のオミズっぽい雰囲気など微塵もなく、奥様はエレガントで、ご主人はシック、人をひきつける魅力を持っていらっしゃいます。ボーヌという決して大都会とはいえない地で、このご夫婦の日本料理店でフランス人が日本を垣間見るとしたら、同じ日本人として私はとても誇らしく思えるのです。お会いしてそのご夫婦の魅力にぞっこんになりました。