料理とお酒


フランス料理がもたらしてくれたワインの文化というのは、それまでの日本料理のお酒を酔うためだけのものから脱却させてくれました。


昔私がこの道に入った頃には、お酒はあくまで酔っ払うためのものでした。お酒が料理との相性で語られたり、吟醸酒のように日本酒のバリエーションや味わいを語られることもありませんでした。まだ少数派だとはいえ、日本酒も料理とともに楽しむものという感覚が芽生えてくれたのは有難いことです。


若い方には理解できないかもしれませんが、昭和40年代くらいまで日本料理店(料亭)は純粋に料理やお酒を楽しみに来るものというよりは、宴会の飲んで騒ぐ、もしくは飲んで食べながら語り合う場所でした。グルメという言葉も食べ歩きという言葉も世の中に存在しなかった頃、女性だけで料理屋を使うなどということも稀だった頃です。もちろん料理もお酒も美味しいほうがいいわけですが、それだけで店が脚光を浴びることはあまりありませんでした。当然のように日本料理は酒の肴としての存在価値が大きくて、お酒を飲むための会席料理でした。今でもその名残は大きく残っていますが、そういう文化で育ってきた日本料理が外国人に「メインがない」といわれても仕方がなかったのです。


それがフランス料理を中心に各国料理の影響と、料理そのもの、お酒そのものに脚光が浴びるようになって、今の日本料理の変化があります。まだまだ発展途上とはいえ、料理屋が料理やお酒で評価していただくようになったのは実際最近のお話であるということは認識しておいたほうがいいと思うのです。日本料理のあり方はこれから料理人たちが改めて確立していくものなのです。