調理場の職分2


昨日の続き


さて、板前=立板(花板)=調理長の仕事です。トップに立つべき板前の仕事はもちろん全体の管理なのですが、実質的には「切る」のが主な仕事です。


「なぁぁんだ、切るくらいだれでもできる簡単な仕事じゃん」「煮方の仕事のほうが難しいんじゃないの?」と思われるかもしれません。


確かに板前=立板よりも煮方が上位になる職場もあるのですが、板の前に立つ、板前=立板が調理場を仕切るのが一般的です。重要なお刺身を引く(お刺身は切るとは言わず引くといいます)こと、焼き物や煮物の素材を切りそろえることなどなど包丁仕事は一見だれでもできそうに思いますが、これが案外難しいのです。素材の切り方で焼き物の仕上がりや盛映えも全く違ってきますし、素材の原価を把握してどの大きさで切るといくらで仕上がる・・・と計算できるかどうかは経営上でも大きな意味を持ちます。


昨日の日記でコメント寄せてくださった「男爵イモさん」のお話で思い出しました。漬物の沢庵を切るのは調理場の一番下位にある追廻(ぼんちゃん)の仕事なのですが、沢庵一つとっても、実際にはぼんちゃんが切るのと、板前=立板が切るのでは大きな違いがあるのです。沢庵自体、切れる包丁で切らないとコントのような繋がった沢庵になってしまうだけでなく、沢庵一本は上から下まで同じ太さではありません。尻尾と上の部分の質量が同じ感覚に切り、尻尾の最後の部分まで見栄えよくお客様に「尻尾を出された」と思わせないように切るにはそれなりのテクニックが必要なのです。さらに立板ともなれば、沢庵一切れをどのくらいの大きさ厚さで切れば、お客様が一口で食べられ薄くなく厚くなく食感を楽しめるのか・・・と考えて切るのです。追い回しにそういうことを教えつつ、原価の安い沢庵で切ることの大切さと基本を教えるのも立板の仕事なのですね。


板前=立板はさらに調理場の人間関係を調整し、献立を立て、仕入れを管理し・・・と、包丁を持つだけでない様々な仕事もこなさなければなりません。これそこ包丁が切れて味付けができるだけではない板前の難しい仕事です。