調理場の職分


日本料理店の調理場の多くはは分業化されています。


修行の段階で、下働きから上へと昇進していくのです。調理師学校を卒業してきても、まったくズブの素人で入ってきても、最初は必ず下働きから始まります。関西では「ぼんちゃん」と呼ばれていました。鍋洗いはもちろん掃除や使いっ走りを経て野菜の下処理などを任せられるようになります。


仕事場によっても違いますが、一〜三年の「ぼんちゃん」を経て、焼き物、揚げ物などの仕事をやらせてもらえるようになります。最低でも焼き物揚げ物に各一年は経験をしないと四季を通じた仕事は覚えられません。その他同じような時期に、脇板、前菜場、盛り付け場など職場の大きさによってはさらに仕事が細分化され、いわゆる味付け前までの諸々の作業をこの時期に覚えます。


焼いたり、揚げたり、盛り付けたり、魚を卸したりの仕事を経験するのが理想的には二年から五年、次に向板(むこういた)といって立板(調理長もしくは現場責任者)の補助をする仕事を任されるようになります。日本料理で重要な魚の管理全般が仕事で、ここまでくると焼き場や揚場を指導したりもしますので、いわば会社組織で言えば主任とか係長クラスといえるかもしれません。


その後やっと煮方(にかた)になります。ここまでが早くて6年から8年。煮方は煮物、椀物、たれ作りなどなど味付け全般を任せられる最も重要な仕事です。もちろん調理長が味をすべて管理するとはいえ、煮方の技量によってその店の味が決まるわけで、さらに味付けだけでなく調理場のすべてを見渡せるいっぱしの職人としての堅実な仕事ができなければなりません。煮方の仕事は卒業がないほど奥の深いもので、何年やっても終わりがありません。まっ、その分やり甲斐のある仕事でもあるのです。会社ですと課長部長クラスですね。


そして、最後は立板(”たていた”もしくは花板とも呼びます)調理長です。本来板前というのは「板の前に座る人」という意味で(昔は座って仕事をしていました)板の前のひと=調理長だけが板前と呼んでもいい職人であったそうです。「板前」の仕事はまた明日。