風土の違い 食生活の違い


先日の日曜日、本を読みながら横目で見ていたTV番組「ウルルン滞在記」は、ナポリでお菓子の勉強のようでした。


タップリのシロップと洋酒に漬けられたサバランのようなお菓子、ラードが「これでもか!」とばかりに練り込まれたお菓子などなど。日本人には、これがメイン料理ではないかと思うほどのボリュームと甘そうなお菓子ばかりです。


昨日お見えいただいた尊敬するイタリアンのシェフと、その時の番組の話になりました。もちろん彼はイタリアでの修行を経ていますし、ご夫婦で滞伊太利亜の経験がある方です。


「僕がいた20年近く前はもっと凄かった覚えがありますね」と語り始めてくれました。


日本人とイタリア人の体格の違い以上に、日常的に食べている料理の違いがあのデザートの違いにも及んでいるのだそうです。日本では料理にも砂糖を当たり前のように使い、米という糖質の多い食材をたくさん摂るのに比べ、イタリアでは基本的に料理に糖質が使われることがとても少ない。普段日本ですとコーヒーに砂糖を全く入れない彼の奥様も、イタリアに一ヶ月いるとエスプレッソに普通に砂糖を入れるようになり、日本のデザートの軽さが好きだった人が、イタリアのデザートを美味しいと思うようになる・・・というのです。料理に使われない糖質をデザートで補うように身体が欲するのですね。試しに、イタリアの若い女性に日本のショートケーキやシュークリームを食べさせると「美味しいとは思わない」というのだそうです。


日本人がツアーで出かけたヨーロッパでデザートが甘すぎるとか、塩味がきつすぎる、ひいては外国人は日本人のように繊細な味が理解できない・・・と簡単に結論を出してしまうのは早計なのでしょうね。現地に一ヶ月、半年と暮らし、身体の隅々にまで現地の食材がいきわたって栄養となったころ初めて語れる国の食生活と風土の違いがあるはずです。


ここまで理解したうえで、ラテンの心を持った人が、日本人にイタリアを感じてもらえる料理を作るのと、見よう見まねで献立に上る「なんちゃってイタリアン」や「フィレンツェ風○○」「ローマ風○○」の創作料理との違いは明らかです。


若い料理人は憧れだけでフレンチ、イタリアンを学び、日本でそれらの料理を提供するための高い壁を感じるまでは長い時間がかかります。もしかすると壁さえ理解できないままに「日本人にあわせたフレンチ、イタリアン」と妥協を妥協と知らずに過ごしています。日本で生まれ、日本の食材に囲まれ、日本料理を生業とする私には、これらのことが理解できないでいました。高いレベルで外国の料理を突き詰めようとしている料理人たちの苦労を知ると頭が下がる思いです。


日本料理を選んでいてよかったぁ。私にはそんな辛い作業は無理です。