店主の言葉


たまたま目にとまったある料理屋さんのサイトがありました。


見ると、店主のこだわりとか素材への思い入れに並んでご主人がブログ日記をつけていらっしゃいました。ブログ全盛の今では料理屋主人の日記など珍しくも何ともないのでしょうが、日記の中に極まれに「こんな客は無粋だ」というような内容があります。「そうそう、いるんだよなぁこういうお客様」「やっぱりどこの料理屋でも辛い思いしてるんだぁ」とうなずくことしきりではあったのですが、読み進み何回か同じように「こういう客は困る」「料理屋ではこうしたほうがいい」というような中身を読んでいると、うなずくだけでなくちょっとハラハラも加わるようになりました。もしかして・・・と、自分のサイトを省みていました。


「そうそう」とうなずく自分も同じように「困ったお客様」を抱えているわけで、多分100%の料理屋がどこかでお客様に対する鬱憤をかかえているはずです。「困っちゃったなぁ」と。ただ、それを表看板を抱えたまま直接口にしてしまうと、ただの張り紙の多い場末の飲食店になってしまう可能性も秘めています。


「カウンター席で迷惑になるような大声をあげるな」とか「当日になって変更やキャンセルをするな」というような基本的なことならまだしも、「刺身の山葵は醤油にとかすべきではない」とか、「お椀の蓋はこう開けるべきだ」「鮨屋で符丁を使うのは格好悪い」などというお話になってくると「俺のことに違いない」「私、そんな風にしていた無粋な客と思われていたんだ」と傷つく方がいらっしゃるかもしれません。いえ、必ずいます。そういう失敗を何度もしたから私にはよくわかります。「あなたの事ではありません」と強く言っても、微細なことで「私の事に違いない」「恥をかかされた」と思う方は本当にたくさんいるのです。不特定多数を相手にしたサイトの恐さです。お客様をよきほうに導きたいと言う思いで書いた言葉でお客様を失うことが頻繁にあります。自分の恥を言うようですが苦い思い出があります。そうやって、痛い思いをしてきて「板前日記」を続けていても未だに懲りずに言わなくていいことを書いてしまったりします。


店主のこだわりとか店主の思い入れというのを言葉にするのは本当に難しいものなのです。(本当に秘めた言葉は裏の裏日記くらいで)