「ワインが知りたくて」


一つの分野にいわゆる名著という本が現れるには、文化の成熟を待たなければなりません。実際、食文化華やかな今でも、ちょっとしたエッセイや、料理人や料理研究家が書いたハウトゥー本はたくさんあっても、読み応えのある本は多くはありません。


ワインについても同様です。ソムリエさんの書いた教則本やワイン関連の紀行文、紹介本はたくさんあっても開高健の「ロマネ・コンティ1935」のような文章は稀です。


が、
先日手にした増井和子「ワインが知りたくて」は読ませてくれました。1970年代からフランスに住む作者が偉大なワイン、名醸造家、類稀なシェフたちに出会うことで受けた感動を元に、ワインへの愛情が語られた本です。なにより編集者としての素晴らしい経歴が物語るように取材ノートの基づく緻密な内容と、ワインを語るときの理知的、端正でいて熱い語り口はこれまでのワイン本では見たことがないほど素晴らしいのです。彼女はワインに焦がれるだけでなく、ワインを取り巻く人間への愛情も豊かであるからこそ出来上がった本です。


フランスワインに全く未知の方には薦めにくいのですが、少しでも興味があったり、知識のある方にはかなりお奨め。