手を動かせ

clementia2005-04-13

私ン処のような日本料理店では上品な出汁をベースにすることが多いのですが、赤だしのお出汁には煮干を使っています。二番出汁にたっぷりの真昆布と煮干を入れて半日、コトコト煮出さなくても置いておくだけで濃厚な出汁がとれます。


お客様に教えていただいて使い始めた吟醸桜という八丁味噌の芳醇さと渋さには、上品過ぎるお出汁は出汁が負けてしまう気がするのです。味噌にはその味噌に会った出汁が必要なのですね。ですから、普通日本料理店で使う一番だし二番だしの他に、椀物のようの研ぎ澄まされて上品な鰹昆布だしと、荒削りでも旨みの強い煮干の出汁、合計四つの出汁を毎日使い分けています。


煮干は使う前に必ず頭とはらわたの部分を取り除かなければいけません。臭みや苦味が増してしまうからです。昔、家庭の主婦は、居間のちゃぶ台の上で新聞紙を広げ、ラジオを聞きながら、TVを見ながら煮干の掃除とか、絹さやエンドウの筋とりとか、ソラマメの殻はずしとか、和紙でこより作りとか、休憩するような時間でも手先だけは動かして何か仕事をしていたものでした。子供たちのお手伝いもそんな仕事を当たり前のようにさせられていたような気がします。


今では見られなくなった向田邦子作品のなかに出てきそうな家庭の風景の一つでしょうね。煮干の出汁自体家庭で味わえなくなったりすると、母の味はますますインスタント化してしまいそうな気がします。ワイドショーを見ながら煮干の掃除をして昆布と一緒に鍋に放り込んでおけば、それだけで旨みのある味噌汁が味わえるのですから、ちょっとの手間、惜しまずにトライしてみてはいかがでしょう。