マツケン・サンバ

消費者が欲しているものと、生産者が提供したいものは往々にして一致しません。


例えば、料理人であれば(私だけかもしれませんが)、いい素材を使い、手間を掛けた仕事をしたいし、そういう仕事こそを評価していただきたいと思います。技術と見識を持った料理人が、店の客層はこういう方々だからと、客単価を抑え、素材は冷凍養殖、人件費の都合で人手がない・・・・となると、フラストレーションはたまりがちです。「俺の本来の仕事はこんなんじゃぁない」と。(くれぐれも、私だけかもしれませんが)


でもこの不景気、世の中で消費者に求められる多くの料理店は、「安くて美味くて」なわけで、「お値段はいくらでもいいから美味しいものを」というのは少数派です。


芸能界でも同じように、いわゆる「営業」とか「地方公演」とかは低く見られがちのようですが、これがあるから美味しいとも聞きます。杉良太郎のショーとか、話題の松平健のショーなどは、一部「時代劇」二部「歌謡ショー」というのが昔からお決まりで、例の「マツケン・サンバ」というのも歌謡ショーの一部なのですね。


しかし、一昨年だったか、あの「マツケン・サンバ」の映像を見たときは驚いたもんでした。「いくら歌謡ショーとはいえそこまでやるぅ」「お客様がひいちゃうんじゃないのぉ」と。あの衣装とあのカツラ、あの振り、あの歌詞。前夫人が「あれだけは止めてほしい」と言ったというのはさもありなん、と思ったのでした。「できれば、ファンの間だけで納得してやっておいてね。見ないふりするから」


ところが昨年末からのブレイクぶりはなんでしょう。不思議なことに毎日のように見せられていると違和感がなくなってくる自分も怖かったりします。


先日のTV番組では完成までの作曲家、作詞家、振付師の作成秘話で一時間番組が成立していました。それぞれの方がその道のプロなのですが、あれが渾身の一作・・・というよりは、プロの頼まれればどの仕事もきちんとやる・・・程度の仕事にしか思えないのにストーリーは出来上がるのです。


しかし違和感がなくなってきたとはいえ、「これが日本を代表するエンターテインメントです」と海外に向けて発信・・・はして欲しくないと思う、心の狭い私がいるのです。やっぱり何とかしてほしいなぁ、マツケン・サンバ。