力量

やっと最近のことだと思います、料理に肩肘張ったところがなくなってきたのは(と、自分で思っているだけですが)


あるお客様が「食通に受けるようなものをだされても訳がわかんないから、普通のものだしてね」とおっしゃいました。


少し前でしたら、力の入るお客様には「これでもかぁ!」というほど稀少な食材で手をかけた仕事をしまくって、結局自滅していったのです。こねくり回した仕事は素材の持ち味が伝わらないし、素材の持ち味だけの勝負では料理としての体裁を整えません。普段やりなれない仕事や食材も、自分の手の内にできていなければ地に足のついた料理になりません。


職人の自己満足は始末に終えません。その上超ど級の見栄っ張りときてますから「ええかっこ」したくてしかたなかったのです。


どれほど社会的地位の高い方、名声のある方、お金を有り余るほど持ち合わせる方がいらしても、今は料理が劇的に変わるわけではありません。自分の力量に見切りがついたのと言うのでしょうか、いい食材が手に入ったからと言っても、自分の力以上の仕事ができるわけがないというのをやっと理解でき始めました。今の実力で普段使う素材をいつも通りに料理しておだしする以上も以下もないのですね。


ありがたいのは今店で自分が取り組んでいる仕事は全く身の丈サイズだということです。「こんな安い値段では俺の力は発揮できない」わけでもなく、「力以上の注文ばかりでオタオタする」わけでもなく、「使いたいな」という素材を思う存分・・・とまではいかないにしても、そこそこには使える状態であるのいうのが職人としては幸福です。