添加物


日本人の純粋志向は混ぜ物をとても嫌います。


日本酒の場合アルコールをほんの数%添加することで、味が淡麗にまとまって安定し、切れ味に繋がるのですが、そのわずかなアルコールさえ「悪」であると決め付ける純米信奉者はたくさんいます。そのくせ淡麗辛口が大好きだったりします。


ワインも同様でラベルの裏に書かれている「酸化防止剤(亜硫酸塩)」の字を見つけ、「日本で飲むワインが、フランスやイタリアの現地で飲むワインに比べて不味いのは、日本向けに「薬」が混ぜてあるせいだ」とのたまう方がいます。勘違いが進むと「酸化防止剤」を「防腐剤」と間違えていらっしゃる方もいるほどです。20年近く前のドイツワインの防腐剤騒動を覚えていらっしゃるのでしょうね。


お座敷でもこの説をとうとうと主張する方がいるのですが、「ね、親方ぁ」などと同意を求められると、否定するわけにもいかずに「へーーー、そうなんですかぁ、向こうで飲むワインは美味しいって皆さんおっしゃいますもんねぇ」などとお茶を濁しておきます。


ワインに含まれる「亜硫酸塩」というのはすでに中世から使われているのだそうで、葡萄をつぶす際の果汁の酸化を防止するとか、雑菌を殺してワイン酵母だけの醗酵を助けるとか、旨味やコクの生成を助けるとか、出来上がったワインを安定させ酸化を防ぐとか、難しい役割はたくさんあるのだそうですが、要は今のように安定して美味しいワインをつくためにはなくてはならない成分なのだそうです。


とはいえ、薬のような成分が体にいいはずがない、蓄積されるんじゃないか、などなど健康オタクが騒ぎそうですが、日本でワインに添加を認められている亜硫酸塩の量は1kgに対して0.035%で、添加された亜硫酸塩はワインの中で酸化されると結局硫酸塩に変化して(バケガクオンチでよくわかりませんが)無害になるのだとか。


それでもたくさん飲めば害があるに違いないとおっしゃるかもしれませんが、マウスで実験した結果、成長障害が現れるほど服用するためには、人でいうと一日7.5本毎日飲み続ける必要があることが証明されているそうです。亜硫酸塩の害の前にアル中、もしくは肝機能障害になること間違いありません。


「だって、フランスで飲むワインには”亜硫酸塩”の表示がないぞ」という方、かの国にはその表示義務がないだけ・・・・なのだそうです。


「じゃ、味は?」・・・・私など、「亜硫酸塩」の入った美味しいワインしか飲んだことがないのでわかりません。


とはいうものの、あちらで飲むワインと日本のワインの味が違う・・・というご意見には、ヨーロッパ経験が皆無の私には一言もないわけなのですが、「味が違う」とおっしゃる方のお話をよく聞いてみると、日本で飲んだ同じ作り手の同じヴィンテージのワインを飲み比べているわけではなくて、「美味しいような気がする」程度のお話であることが多いのです。大体ワイン好きなどという人種は、レストランでワインを選ぶとき、今まで飲んだことのあるワインよりは、より未知数の新しいもっと美味しいワインを求めるものです。「あの時のあの年のワインが美味しかったから、今日もそれ」じゃなくて「飲んだことを自慢したいもっとイイヤツ(でお値段がこなれているヤツ)」を選ぶ傾向があります。何しろ私自身その典型ですから。


お料理が違い、雰囲気が違い、温度も湿度も、旅行気分であることも差っぴいて、冷静に同じシャトー(ドメーニュ)の同じヴィンテージが全然違う、保存方法も輸送方法も踏まえて・・・・となったら考え直します。まず、自分で確かめなくてはね。どなたか連れて行って、ヨーロッパ。