匂い


奥様料理教室でのこと。


鯛の潮汁の下準備を説明しつつ、「じゃ、この鯛の頭の鱗をとってみましょうか」と私。


「やだぁ、手が魚臭くなちゃう」とある奥様。


「いえいえ、鮮度のいい魚は臭くないですよぉ、ほら。それに調理場だって魚臭くないでしょう」


そう、考えてみたこともなかったのですが、たぶん、店の調理場は魚臭くはありません。私が毎朝仕入れのために立ち寄る魚屋二件もたくさんの魚介類を置いていても全く魚臭くはありません。真っ当な店が真っ当に掃除して、真っ当な素材を使っていたら臭くはならないのだと思います。


料理屋の中には店を新築したにも関わらず、半年で昔の店の匂いが漂う店があります。香りではなくて匂いであることが辛いのですが、どこかに落ち度があるのでしょうね。


ニュースステーションが終わったそうです。もうずっとこの番組は反面教師としてしかと見たことしかありませんでした。


世の中の事件事象は、メディアを通して伝えられるだけで事実はどこかでゆがめられてしまう、いえ、事件事象に関わる人が100人いれば100の真実があるのでしょうが、あざといセンセーションのために伝え方が操作されたり、悪く言えば世論を煽動するようなキャンペーンのあり方は、報道と言う名を借りたショービジネスとしては危険な方向に向かいやすいと強く感じていたためです。


昔、ある病気で人が何人かなくなったとき、同じ病を抱える友人がいて心配をしたことがあったのですが、このときのニュースステーションの取り上げ方は、ニュースの並べ方といい、取り上げ方といい、病気を抱える人間を「伝染病保菌者」(ではないのですが)かのように差別する内容であったことがあります。この報道は決定的にこの番組への不信感を高めました。


ベトナム戦争の時代、アメリカのTVで、客観的な報道で大統領よりも信頼できる男と言われたウオーター・クロンカイト(人気アンカーマン)が、普段私的なコメントをほとんど述べないのに「私はこの戦争には反対です」と述べた一言が反戦運動の弾みになったことがありました。時代と国が違うとはいえ「ニュース」という名前を冠した番組としてはずいぶん違うものです。


お昼の帯ドラマ話題の「牡丹と薔薇」への視聴者のもしかすると本気の熱狂と、ニューステーションのニュースや久米宏のコメントを鵜呑みにしてしまう生真面目な日本人の体質は同じところにあるような気がします。