天才


やっぱり天才的だと思うのです、成澤由浩。フレンチのシェフです。


ずっと以前に小田原「ラ・ナプール」のオーナー・シェフとして、このサイトでも私が衝撃を受けた料理人と紹介したことがあります。


昨年いよいよ東京青山へ進出し、「夢だ」と語っていたグラン・メゾンへの道を歩み始めました。


最近なかなか訪れることができないでいたら、先日NHK[食菜浪漫」に登場し、お披露目してた献立が「牡蠣のシャンパジュレ


「厚岸の牡蠣 シャンパン蒸し」を以前に食べたときの感動も忘れられないのですが、今回は生の牡蠣にシャンパンのジュレ(ゼリー)をかけた料理です。なんだそんなもん誰でもできるぞ・・・・といったらその通り、レシピ通り作ることは私にもできそうです。ただ、その発想は真似ができません。完成された料理を真似ることは簡単でも一から考え出すことは至難の技です。


もちろん牡蠣は厚岸の最上級、食べたことのある人でなければその凄みは理解できません。ジュレにするシャンパンは紹介はしていませんが、「実際飲んでいるシャンパンを使えばマリアージュはベストです」とクリュッグ。成澤さんならクリュッグも普通に使いそうです。


牡蠣とシャンパンだけなら考えつきそうですが、そこに柚子の絞り汁と皮の香りを加え、さらに菜の花を添える。菜の花の軸はソテーして生クリームで煮詰め牡蠣の下に引きます。この発想までが行き着かないのです。


何気なく見ていれば生牡蠣にシャンパンを付け加えるだけのそう難しくない料理としか思えないのですが、私から見ると「やっぱり天才だ、この人」と確信してしまう料理です。


素材の追求が並でない、ただ新しい組み立てを発想するだけでなく、そこに付け合せる素材まで深く考え合わせてある。献立の流れなのかにポリシーがある。


自分にない才能に触れるときの驚きは心を洗わせてくれます。どうひっくり返ってもかなわないと思いつつ、あまりの力の差に憧れを感じてしまうのです。


ただ、彼のこの力を天才だ、と感じるかどうかは人それぞれです。「不味くはないけど、そこそこ美味しい普通のフレンチじゃん」と実際に食べて感じる方も多いようです。「お前が天才だ、というのは買いかぶりすぎだ」というお話も聞いたことがあります。


でも、天才を天才と評価できるかどうかも、私には力の一つのように思えるのです。


彼ほどの驚きを与えてくれる料理人は少なくとも日本料理界ではまだ知りません。