お奨め


昨日のこと、二度目のご来店をいただいたお客様にお酒をお奨めするのに「先だって”義侠 妙””十四代 大吟醸””黒龍 石田屋”を召し上がっていただいていますので、今日はメニューに載っていない稀少なものを是非」と申し上げると、「そんなことまでおぼえているんですかぁ?」と。


ちっとも賢くないので覚えてはいないのですが、PCで検索すれば簡単にわかることです。


小さな店ですので、お客様が召し上がった献立とお酒、器くらいを記録することは当然のことです。


予約の電話をいただくと、まず、前回、前々回の料理の内容と提供させていただいたお酒をチェックするのは日常的な仕事です。


お好みの傾向だけでなく、予算も大事です。お客様にとって適正に思える値段のお酒がどれくらいのものか?さらに酒量がどれほどのものか?酒質の変化を楽しんでいただける方か?好みが固定している方か?決め技になる最後のお酒はどんなタイプか?


大きな店ではマニュアル化してマーケッティング戦略として使えそうなノウハウも、個人の小さな店では「気遣い」の一言で括れそうな事柄ばかりです。たぶん巷の店ではどこでも似た様な事をしているはずです。


難しいのは一見のお客様。


情報がまるでないお客様に「辛口の日本酒をください。お奨めで」


よく言われるパターンです。


15年前でしたら、新潟系の淡麗なすっきり感のある辛口をいうのか、たとえばその当時の菊姫などの重みのある辛口をいうのか、選択肢も少なくてお奨めするのも簡単だったのですが、今ではそんな簡単なお話ではありません。


辛口を所望したお客様に、王禄のような切れ味のある辛口をお奨めして納得度50%くらいだったのが、十四代で「美味い!」とおっしゃった時、この方にとっての辛口のイメージがやっと理解できるのです。


お客様のお好みと潜在的な舌の感覚を探るのには本当に時間がかかります。


反面、時間をかけて信頼関係が出来上がっていく喜びもあるのです。