お国自慢
食材に関して言えば、お国自慢や偏執狂的郷土愛に燃えるわけでもなく、自虐的に故郷に批判的でもないつもりです。
地元のもので美味しいものもあれば、別の産地のほうが素晴らしい場合もあって、「地物=美味しい」という原則はありえません。
ただ、一般の方々やメディアには「海の側、漁港の近く=魚の鮮度がいい」と思い込む場合も多いのは事実です。
実際には漁港の側の食堂で作られる海鮮丼は、冷凍の甘エビ、養殖の鯛、冷凍の鮪、冷凍のいくら・・・・・まっ、鯵と烏賊くらいは地物、というのはよくあることで、¥1000-¥1500の海鮮丼が地物の活き魚で成り立つわけがないのです。
先日のTV旅番組でも、伊豆、漁港のすぐ側の海の幸を炭焼きにする店で、タレントが「漁港の側だから鮮度が素晴らしい」といって食べているのは、冷凍の塩さばと、冷凍の海老、ロシア船冷凍のタラバ蟹などなど。店は天然物とも、活かし物のみとも謳っているわけではないので、メディアの思い込みと番組つくりのウソが当たり前のようにまかり通っているだけです。
海の近くの町であっても、マーケットの陳列ケースに並ぶのは冷凍物と養殖物ばかりであることもよくあるようです。前記のように庶民がお手頃の価格で食べようと言うものに市場の原理は見事に反映されます。大量に安値安定供給されるためには、いかに海の近くでも限界があるのです。
先日おめでたい会でお越しいただいたお客様のうち一組は転勤が多く、この地へも転勤で見えているようでした。「いろんなところで住んでいますが、海の側の町でこれほど魚が美味しくないところはありません」と他の方々におっしゃっていました。
間が悪いと言うのか、そうおっしゃっていた時にお出ししていたのがお造り。
6時間前に見計らって活け締めにした1.5kgの舞阪産一味鯛、鏡のように光る鮮度の福田産太刀魚焼霜造り 南高梅の梅肉かけ。
こんなときに魚の説明をするわけにもいかず黙ってお出ししました。
ご主人は二切れ食べただけ、奥様は箸をつけず、娘さんは「美味しい」とすべて平らげました。
次の焼き物は、舞阪産3kgの鱸の油焼き、お刺身になる鮮度のものでしたがやっぱりご夫婦は残されました。
サービスに問題があったわけでもありませんので、これはこれで場の雰囲気ですから仕方ないのですね。この地の面目躍如にはならなかったようです。こんなこともあります。私の力不足としか言いようがありません。