高い志


どんな仕事でも一緒なのでしょうが、飲食界でも初めて自分の店を持とうという時には、すべての人が高い志を持っているものです。大儲けをしようでも、よりレベルの高い店にしようでも、より高みをめざすのは皆同じです。


店が順調にスタートし着実にお客様が増えていったとしても、同じレベルを保つことは難しいものです。「気の緩み」などという単純な言葉で言い表せないほどちょっとしたことで店の水準は簡単に落ちていきます。


掃除をちょっと怠けてしまった。思うように素材が手に入らなかった。重要なスタッフが辞めてしまった。忙しすぎて手が回らなくて、素材や調理方法に妥協をしてしまった。日々怠りなくやらなければいけない仕事をまとめて調理して冷凍しておいた。電話の対応がついおろそかになった。などなどなどなど。。。。。


わが身を振り返っただけでも、同じ水準を保つことが困難であるのに、ましてや時代の変化、情報をたくさん得ているよなお客様のニーズが日増しにレベルアップしている状況に対応しながら店を向上させていくことは至難の業です。


これですから、店を始めた時にいだいた「さらに自分の使いたいいい素材を使って客単価を上げていく」だとか「店を広げてキャパシティを増やす」だとか「二号店三号店を開く」だとかいう志はすっかり忘れ、店が古くなるとともに現状に満足しようと自分を慰め、年齢を重ねるとともに意欲が薄れていくのです。


今のような厳しい時代ではなおさらです。


自分を納得させることなど簡単なのです。


「この辺のお客はちっとも俺の仕事を理解できないから」とお客様のせいにすればいいのです。お客様は着実に離れていきます。


ずっと以前に勉強会で若い新進の中華の職人さんが、様々な辛味をつかった中華のバリエーションを披露してくれたことがあります。その向上心は素晴らしいのですが、批評の段になって力のあるベテラン職人さんがこんな風におっしゃいました。「自分も含めてですが、こういう仕事が自己満足にならずに、お客様に注文していただけて、変化に富んだ仕事を納得していただける店作りをするっていうことが大事なんでしょうね。仕事はできるけど注文は普通のラーメンと麻婆豆腐、エビチリ。”俺の実力はこんなもんじゃない”・・・・にならないように、自分の仕事が存分にできる店つくりをしなくてはね」と。


それが一番難しいのです。もちろんたっぷりと自戒の念をこめて。