昇格


毎日の献立は100%私が考えます。


コースがひとつの流れになっていますので、他の人の献立と結合させると、一品が優れていても全体のバランスが崩れてしまうことがあります。


私が献立で思い悩むように、調理場の若いスタッフは毎日のお惣菜に四苦八苦しています。交代ではあるのですが、毎日のことですから大変です。


お惣菜を考え作ることで養われる調理の技術力と想像力というのはばかにならないのです。ここで力を発揮できるような子は伸びるのも早いものです。


つい先日のお昼にスタッフが作った「夏野菜のあんかけご飯」を食べてみるとなかなかいけます。


細かく切った茄子、ピーマン、トマトを軽く炒め、鶏がらスープを加えてアンを引き卵白を少々加えます。塩味と挽きたての黒胡椒で味にパンチを与えています。


「これ、いいじゃん。ピーマンを伏見唐辛子に変えてお客様に出してみようか」と私。


「えっ、ほんとですかぁ」とスタッフ。


お惣菜の試作がお客様の献立に昇格することはめったにありません。ましてや若いスタッフの試作がそう簡単に認められるわけがないのです。


鶏がらスープ、卵白を使うこと、トマトが和食のご飯に使われること、黒胡椒の刺激があることで、ぎりぎり和食で使えながら後半のご飯に面白みを加味してくれました。お客様の評判も上々です。


カウンター席などでは、考案した本人にサーブさせると当人はドキドキです。お客様の「美味しい」の一言でもあれば天にも昇るような気持ちになるのです。


初心のこういう素直な喜びがいい職人を造るのですね。