1980円ワインと50000円ワイン


お得意様が持ってこられた「シャトー・ラフィット・ロートシルト1976」をご相伴させていただきました。


グラスをいっぱいに満たす複雑なブーケ、まさに絹のようなという形容がぴったりのスムースな喉越し、「すっぱさはどこ?」「渋さはどこ?」と聞いてしまいそうに素晴らしい、神がもたらした絶妙のバランス、脳髄まで幸せに満たしてくれる長い長い余韻。ワインを絶賛するすべてのほめ言葉をてんこ盛りにしても足らないような偉大なワインでした。


私がこういう偉大なワインを一部分でも偉大と理解できるようになったのはいつごろのことだったでしょう?そう昔のことではないような気がします。


経験的に見て、日本酒大吟醸の極上のものは、その味の経験値がない方にも「美味しい」と理解しやすいものなのですが、ワインの場合はある程度の経験値がないと偉大なワインを理解できない場合があります。


かくいう私も本当に隅々までラフィット1976を理解しているかというと「?」がたくさんついてしまいそうな気もします。


ロマネ・コンティを初めていただいたときの最初の印象は「頼りないくらい美味しい」というのが正直なところでした。


リッシュブルーをいただいたときも、「濃厚な味わい」が最初は理解できませんでした。濃厚というならカリフォルニア・ワインのピノ・ノワール種を使ったものの方が濃厚のような気がする(とはその場では言いにくいものなのですが)


概していえるのは、偉大なワインをいうのは「本当にこれがいいワインなのだろうか?」と疑問に思ってしまうほど強烈な自己主張が少なく、エレガントで、美味しい水のほうにスムースに喉を通ってしまうものなのです。


TV番組で話題になっていた、1980円のワインと50000円のワインを比べると1980円に軍配が上がるというのはこんなところに原因があるのかもしれません。


お客様にもよく「ワインはよくわからん」とおっしゃる方がいらっしゃいます。


1980円とは言わなくても、5000円のワインと50000円のワインの10倍の値段の開きがどこにあるのだ、という意味では「ワインはよくわからん」というお気持ちは全くよくわかります。


「何万円も出さなくたって、2-3000円で十分美味しいワインが見つけられるよ」とか「チリ・ワインなんかで十分美味しいやつがある」とおっしゃる方は、きっとまだ偉大なワインの洗礼を受けていらっしゃらないのではないかと思うことがあります。


偉大なワインの底知れない魔力を知った方は、50000円が持つ意味を納得できます。高すぎるとは思いながらも、飲めるもんならもう一回あの魅惑にはまってみたい思うものです。


そんな無駄なお金・・・・という方は無理に入り込む世界でもありません。確かに無駄なほど異常に値段が高いことは事実です。


ただ、ひれ伏してしみそうに偉大なワインをしってしまった幸せというのには、もう後戻りできないような魅惑の世界があることも事実です。悪女を知ってしまった気分です。


翌朝になっても幸せに浸れます。


ああ、ラフィット。。。。ご相伴なんですけどね。