鰹
「もち鰹」の季節です。
「もち鰹」というのは、目の前の遠州灘で獲れた近海の鰹のことです。もちもちとした活き身の食感は一般的にはなかなか食べれませんので珍重されます。
普通、鰹は近海で釣れても、速いスピードで動き続けなければ生息できないために、鯛や平目のように生きたまま運ぶことができません。その日に水揚げされた鰹でも市場に入荷し、料理屋にすぐ運ばれても最短で翌日になります。
ところがここ浜松の場合、舞阪漁港が近くにありますので、水揚げされたその日の鰹を夕方料理屋に運ぶことが可能です。
鮮度という点ではこれ以上はない状態の鰹が食べられるのです。そのためには遠州灘目の前の黒潮を登ってくる鰹が、昼過ぎまでに入港しなければなりませんので、時期もある程度限られます。
そんな鮮度のいい鰹が手に入るせいか、浜松の方々は鰹が好きです。鰻よりも鰹です。
ただ、皆さんが食べたがり、もち鰹をもてはやすものですから、浜松の料理店では鰹、もち鰹(はある程度の値段ですのでどこでもというわけにはいきませんが)はどちらでもおいているほどです。
そうなると偏屈板前の意固地さがむくむくとおきてしまいます。どこでも食べられるなら、他で召し上がっていただこう・・・・と。私ン処は他にはないもので・・・・と。
というわけで、
「もち鰹ないのぉ」というお客様の声を尻目に、
「問題じゃなくこっちのほうが美味しいから」(と口には出しませんが)一味鯛を使ってしまいます。
舞阪、福田というシラス加工の有名地が近所にあるのですが、4-5年前から静岡 用宗の浜口さんが作るシラスを使っています。
送料も含めると三割ほど値段も高く、傷みも早いので一週間に二回とらなくてはいけないのですが、浜口さんのに限っています。
だって、美味しいから。このあたり、他では食べられないから。
経済学的に見ると「差異だけが利潤を生む」」のだそうですが、板前的には「差異がお客様の満足を生む」というより「板前が自己満足している」・・・・のです。